
繁忙期の夜間、膨大な量の申告書の処理をロボットが実行。翌朝にはすっきり完了──。岐阜県岐阜市の三浦陽平公認会計士税理士行政書士事務所(以下、三浦会計事務所)は、童話で聞いたことがあるような理想的な成果とともに業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実践している。
カギは「コア業務との連携を軸にツールを選ぶ」「不要なら即解約する」という原則にある。大きな予算も専門IT部門もない13人の事務所が、この方針を軸に6段階のDXを積み上げ、2022年比で正社員の年間総労働時間を4.4%削減し、有給休暇取得率を84.8%へ引き上げる成果を得た。
本記事では、高度な専門性で顧客の業務支援と課題解決を担いながら、少人数で膨大な業務量を抱える士業事務所が、いかにして段階的なDXを実践し、えるぼし認定取得など採用競争力の強化までに至ったのかをひもとく。DXに向けたプロセスと成果の全容を、同事務所の総務担当・佐竹茂之氏、スタッフの神田将良氏に伺った。
業務のデジタル化やIT導入を検討しているが、何から始めればよいかわからない、専門部門がなくて不安がある、限られたコストや人員で成果を出したい──。そんな企業の経営層、事業部門の責任者・担当者はぜひ参考にしていただきたい。
抱えていた課題
- 問題箇所の把握が後手に回り、業務の進捗や優先度管理の属人化が発生していた
- 申告業務に手作業が集中し、業務が逼迫していた
- 紙管理、手作業の多さが、スタッフの柔軟な働き方を阻んでいた
効果と対策
- Trelloで進捗を可視化し、スタッフが互いにフォローし合える体制を確立
- AI-OCR+RPAによる夜間バッチ/自動化で、アナログ工程のボトルネックを解消
- 段階的にDX計画を積み重ねる方策で実践。年間総労働時間を4.4%削減、えるぼし認定3段階(5項目全充足)を取得
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目次
誰もが疲弊する膨大な量の手作業……「繁忙期のボトルネック」を解消せよ
| 法人名 | 三浦陽平公認会計士税理士行政書士事務所 |
| 代表者 | 三浦陽平氏(公認会計士・税理士・行政書士) |
| 従業員数(代表除く) | 12人(正社員8人・パートタイム4人)、うち女性10人 |
| 所在地 | 岐阜県岐阜市 |
| 開業 | 1945(昭和20)年 |
| 事業内容 | 月次・決算業務、税務申告、相続・事業承継、M&A支援、記帳指導・代行、税務調査立ち合いほか ほか |

三浦陽平公認会計士税理士行政書士事務所
総務担当の佐竹茂之氏
三浦会計事務所は、1945(昭和20)年創業、三代目所長の三浦陽平氏が率いる岐阜市の地域密着型士業事務所です。公認会計士、税理士、行政書士の3資格を持つ所長三浦氏のもと、12人のスタッフ(うち女性10人)が担当制で支援。コア会計ソフトにミロク情報サービス(MJS)を用い、岐阜エリアを中心に対応しています。
税務申告における電子申告業務では、電子申告データの作成、送受信の確認、完了報告書の出力まで、通常は1件の処理ごとに手作業で操作する必要があります。総務担当の佐竹茂之氏は「申告業務が連続する中で、他の業務を並行して進めることが難しい状況にあった」と当時を振り返ります。
この状況は、従来の“アナログ”な書類管理と業務進捗の属人化も影響していました。紙文書を探すことから時間がかかり、昨今は電子帳簿保存法へ対応する電子的作業との両立も急務で、どの案件がどの段階にあるかが一目で分からない。こうして問題箇所の把握が後手に回ってしまうボトルネックが、煩忙期には負担となり、誰もが疲弊してしまう状況にありました。
そこで所長の三浦氏はこの状況と策を見定めた「緊急の目標」を率先して掲示。段階的に挑むDX推進計画を制定しました。

三浦会計事務所が定め、実践した段階的なDX推進計画(提供:三浦会計事務所)
コアシステムを「軸」に、段階的に積み上げる──士業事務所が実践した変革のプロセス
三浦会計事務所のDXプロセスにおける、一貫した判断基準が「コア会計ソフト(MJS)との連携、相性」です。
所長の三浦氏が率先し、自ら情報収集し、各スタッフの利用シーン、連携可否を横断的に確認する基礎を制定。佐竹氏、神田氏が中心となって、コアの業務システムを軸とする以下の推進計画を定め、「段階的」に進行していきました。
| プロセス | 取り組み内容、成果 |
| ①ペーパーレス化 | ドキュメントスキャナー製品「ScanSnap」でデジタル化、富士フイルムビジネスイノベーション 「DucuWorks」で整理、MJSの「e-ドキュメント Cloud」で電帳法の順守に対応。スタッフ席への専用スキャナー配置で「即時デジタル化」を習慣化した。 |
| ②業務可視化(Trello) | アトラシアン「Trello」で顧客別業務別カラーボードを作成。「資料依頼中→作業依頼→作業中→完了」の進捗をリアルタイム共有し、手の空いているスタッフが自発的にフォローに入れる体制を整える。 |
| ③RPAで自動化(ASIMOV ROBOTICS) | RPAツール「ASIMOV ROBOTICS」で、申告書の電子データ作成・送受信確認・完了報告書の出力を“夜間・無人でのバッチ処理”で実現する体制を構築。
別途、グループウェア(MyKomon)からRPAへ直接指示できる連携も整えた。 「“翌朝には業務完了している”を実現。管理業務が自動化し、生産性が大幅に向上した」(神田氏) |
| ④AI-OCR(MJS AI-OCR)一本化 | MJSのAI-OCR(当初性能不足)→インフォディオ「スマートOCR」(代用/過渡期)→MJSのAI-OCR(精度・機能向上を評価・確認し、再採用)と変遷し、一本化。「過渡期の並行運用→性能確認→即解約・切り替え」の考え方を選定の原則に据えた。通帳・現金出納帳などの手入力を大幅削減した。 |
| ⑤グループウェア統合(MyKomon) | 名南経営ソリューションズの士業向けグループウェア「MyKomon(マイコモン)」でスケジュール・日報、報告・指示・依頼事項、顧客コミュニケーション体制、進ちょく・工数管理の各業務と共有体制管理を一元化。
顧客とのデータ受渡しをメール、LINEから共有フォルダへ切り替えることで、誤送信リスクを低減するとともにファイル管理の労力を低減。MyKomon、MJS、ASIMOV ROBOTICSの3ツールを連携させ、「業務フローが一本につながった」(神田氏)。 |
| ⑥生成AI | ChatGPT、Microsoft Copilot、Gensparkなどを担当者が選択運用し、業務効率化に活用。AIの処理を確認、修正し確定することで業務効率を改善。 |
──「膨大な量の手作業を一掃する」のキモとなったのがRPAの「ASIMOV ROBOTICS」ですね。この選定理由を教えてください。

三浦陽平公認会計士税理士行政書士
神田将良氏
「(基幹の業務システムである)MJSとの連携に強いRPAがあると知ったことがきっかけです。MJSとのデータ連携実績とともに、申告業務の『夜間バッチ処理』を実現できることが採用の決め手でした。
定型業務の自動化とともに、夜間・無人でのバッチ処理により翌朝には業務が完了している状態を実現できました」(神田氏)
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── 紙資料の電子化において「AI-OCR」を2製品、並行して使ったのはなぜですか。
「まず、MJSに備わる標準機能を用いましたが、当時は(同事務所の業務ニーズ視点で)AI-OCRの精度、機能が不足していたのです。そこで補完として導入したのがInfodioです。しばらくはこちらを使いつつ、後日、MJS/AI-OCRの性能が向上し、当方の求める精度が出ることが確認されたことで、MJSに一本化することにしました」(神田氏)
「まず試す。使えなかったら/使わなくなったら、躊躇なくやめる」という原則も、このプロセスを通じて確立したと神田氏は述べます。
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「RPAによる自動化」と「AI-OCRによるデータ化」の成果(提供:三浦会計事務所)
スタッフの年間総労働時間4.4%削減、有給休暇取得率84.8%への到達
これらのプロセスをじっくりと段階的に積み重ねることで、繁忙期の業務集中やタスク過多の問題が定性的にも、定量的にも大きく緩和する成果を得ました。
所定労働時間は、もともと1日7時間(業界標準より短め)に設定しながらも生産性の向上を実現し、正社員の年間総労働時間を2022(令和4)年比で4.4%削減。特に顧問先を多く担当するベテラン上位2人については最大で6.5%削減を達成しました。
また、有給休暇取得率 も2023(令和5)年の66%から直近(2025年)に84.8%へ大きく向上。多くの会社も繁忙期は目の前の業務を処理するだけで精いっぱいになり、有給休暇を取りたいと思っても取りづらい空気もあると言われますが、DXによって定型業務を減らし、業務を属人化させない体制を整えました。

定型業務を減らし、業務を属人化させない体制に変革したことで、特に「人(スタッフ)」へ成果が顕著になったという(提供:三浦会計事務所)
続いて、12人中10人が女性というスタッフ構成のもと、厚生労働省「えるぼし認定」3段階(5項目全充足)を取得しました。DXで労働時間を削減し、より「働きやすい職場」となり、昨今は同事務所の求人PRなどにも活用しています。
今後、今回の自社取り組みで得たノウハウをもとに、「頼られる士業」ならではの顧客向けサービスの拡充も積極的に図っていくと佐竹氏。「AIってどうはじめればいいの?」のような顧客向けのAI導入コンサルティング業務や、業務自動化など自社開発の知財をソリューションとして外販するといった新たな収益の柱につなぐ新事業の展開も見据えます。
完璧を目指さず、動かしながら改善していく「自社視点のプロセス」を構築して実践してほしい
同事務所の取り組みで大きな参考になるのは、プロセスとその「順番」です。
三浦会計事務所のDXは「可視化→自動化→知性化」の順に進んでいます。いきなり生成AIを導入するのではなく、まずTrelloで業務の全体像を把握し、次にRPAで定型作業を自動化し、その次に……といったように、業務や全体の整合性を確認しながら段階的に進めました。
もう1つは「軸を決める」ことです。当たり前のことだと思うかもしれませんが、昨今は特に目立つ「AI化/AI対応」が気になるがゆえ、「AIに関するツールを導入する」ことが目先の目的になってしまって、本来の「何のために実践するのか、それによってどんな成果を得たいのか」を見失っているケースも増えているのです。
同事務所では「主業務システムであるMJSと連携できるか」を全ツール選定の軸にしました。自社の業務システムやフローを軸に周辺ツールを選べば、ゴール(目的)がブレず、混乱や後悔する可能性も減らせます。スモールスタートで試し、成果が出なければ切り替える。この柔軟さと繰り返しが6段階ものDXプランを積み上げたことになります。このことは士業事務所に限らず、多くの企業が目指せる着地点になります。
「まず自社を実験台にしてみることだと思います。ツールを入れてみて、うまくいった実践値をもとに次の目標を設定する。この繰り返しが結局は一番の近道で、そうして得た知見はそのままクライアントへの提案にも生きてきます。状況が変わればツールも変えていけばいい。完璧を目指さず、動かしながら改善していく姿勢が大切ではないでしょうか」(佐竹氏)
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