そこで考え得るもう一つの方向性は、いろんな家電がなんらかのセンター装置につながり、それぞれの動作状況を分析することで、総合的な何かの情報を得るということだろう。
つまりAV機器の論理をここに持ち込むならば、シロモノ家電に対する媒介物は、人間の行動というわけだ。
目覚ましが鳴ったら5分後にコーヒーメーカーが作動する、といったことは、毎日の行動パターンを学習することによってなし得られる可能性の一つだ。
出かける前の行動を逐一先回りして家電がすぐに使える状態で待ちかまえてくれるならば楽だろうし、それ以外の時間は電源が切れていてもOKなので、無駄な待機電力が減らせる。
うちの電気ポットなんざ、わざわざ24時間お湯を沸騰させ続ける必要はないのだ。むろんこれが行きすぎると、チャップリン「モダン・タイムス」の前段みたいになってしまうので、ある程度の柔軟性は求められるだろう。
だが一方で、家電が総掛かりで人間の行動を分析するということは、セキュリティ面での不安要素を含んでいる。もし1週間の行動パターンが流出してしまったら、家族全員が留守の時間帯などが簡単に分かってしまうということにもなる。
もちろんこれは、ある家庭を定期的に観察すれば、今でも人力で可能だ。セールスや宅配の人は、電気メーターの回転でその家が留守かどうか分かるという。
結局はその程度の情報であっても簡単に判断できてしまうことなのだが、そういう生活パターンがあることが不特定多数の人に知られてしまったら、やはり問題だと言わざるを得ない。
いずれにしろ現実的な線としては、いろいろな家電を買い換えていったら、数年後にはいつの間にかデジタルホームが可能な下地ができあがっていた、というようなところではないだろうか。すべてのものにEther端子を着けて回るのは、いくらなんでもバカバカしい。電力線を使った通信とか、無線通信あたりがキモになるのだろう。
家電のステータスをデータ化してしまえば、それだけ人間の行動心理や生理学などの研究が進み、人間に対する理解には大いに役立つに違いない。だが最低限のプライバシーは尊重されなければならないし、その情報が漏れてしまえば、社会基盤が崩壊してしまうことにもなりかねない。
結局のところ家電メーカーが一番気をつけておかなければならないのは、「なんにも買わないのが一番」という結論にならないようにすることではないだろうか。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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