現在日本利用されているPLCには、3つの規格がある。屋内の電気ケーブルにPCのデータを重畳させるという基本的な仕組みは同じだが、アダプタ(PLCモデム)の仕様が異なるため互換性はない。しかも同じ電力線で使用すると、干渉により速度は低下する。PLC導入時には、どの方式にするか事前に検討しておくことが必要だ。
1つは、松下電器が開発した「HD-PLC」。変調方式にはWavelet OFDM/PAMを採用、通信内容はAES 128bit暗号技術により保護される。同規格のPLCモデム「BL-PA204」を例にすると、理論上の最大通信速度(PHYレート)は190Mbps、実効速度(TCP)は最大55Mbps。なお、日本で使用が許される2〜30MHzの周波数帯域をフルに使わず、上下2MHz分を除いた4〜28MHzで通信する。
スペインのDS2が開発したのは「UPA」。使用可能な周波数帯域を狭めていないため、こちらのPHYレートは最大200Mbps、実効速度(TCP)で最大60Mbpsと、HD-PLCを上回る。変調方式にはOFDM/QAM、暗号技術には3DESを採用している点も、HD-PLCとの相違点だ。
そしてもうひとつが、HomePlug Powerline Allianceという団体が標準化を進める「HomePlug AV」だ。変調方式にはUPAと同じOFDM/QAMを採用、PHYレートは最大200Mbps、実効速度(TCP)は最大55Mbpsとスペック的には同等。なお、暗号技術にはHD-PLCと同じAES 128bitを採用している。
3規格ともPLCモデム親機1台と複数台の子機を利用する点は共通するが、親機の電源がOFFのとき全体が通信不能になるHD-PLCに対し、UPAとHomePlug AVでは子機同士でも通信可能、という違いがある。Intelが提唱するエンターテイメントプラットフォーム「Viiv」のオプションとして、HomePlug AVの採用が決まっているなど、将来的な拡張性の部分でも差はある。現在のところ、どの方式がベストとは断言しにくい状況だ。
コンセントにつなぐだけで高速通信、LAN設備なしに家庭内ネットワークを構築可能……といういいこと尽くしの感もあるPLCだが、ネガティブな意見も少なくない。
そのひとつが回線品質。しっかりとシールドされたEthernetケーブルに比べると、本来通信用につくられていない電力線はノイズやインピーダンスの影響を受けやすく、その結果通信速度が低下する可能性がある。ノイズを発する電化製品も多いため、常に理論値の最大通信速度を得られるのは難しいと考えるべき。
電力線から漏れる電磁波により、短波放送やアマチュア無線が受信しにくくなるとの報告もある。昨年12月には、アマチュア無線家が国を相手取り、PLC機器の認可取り消しを求める行政訴訟も起きている。この点を踏まえても、いますぐ有線/無線LANに取って代わることはなさそうだ。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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