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CESで分かった2008年のトレンド麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/3 ページ)

» 2008年01月22日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]

――去年といえばソニーの有機ELテレビが大きな話題になりましたね。展示されていた11V型はその後にXEL-1として製品化されました。

麻倉氏: 去年はソニーが展示して衝撃を与えた有機ELですが、今年のソニーブースは去年とほぼ同じ展示でした。11V型の解像度が960×540ピクセルとちょうどフルHDの1/4、まだ製品化されていませんが、27V型は1920×1080ピクセルのフルHD解像度なので、今後は27V型には期待したいところです。

photo Samsung Electronicsの31V型有機ELテレビ

 今年はSamsung Electronicsが31V型の有機ELテレビを展示していました。パネルを製造したSamsung SDIは世界最大の有機ELパネルメーカーで、これまでは携帯機器向けを手掛けてきましたが、テレビにチャレンジしてきました。ただ、ソニーの製品に比べると精細感よりもコントラストに力点を置いているように見え、その点では同じ有機ELながらも対照的です。いずれにせよ、自発光形式が新しい時代を切り開くと感じました。プラズマ・ディスプレイの有力メーカーである、Samsung SDIは、「ポスト・プラズマ」として、明確に有機ELに力を入れてきた印象ですね。

 大画面化も70V型を越えるとフルHD以上の解像度がないと粗さが目立つように感じます。ソニーブースに展示されていた82V型の4K2K液晶テレビも要注目ですね。4K2Kについては撮影環境が整っていませんが、デジタルシネマを映し出す用途にも利用できますし、NHKの推進するスーパーハイビジョン(4320×7680ピクセル)もあります。これからは大画面化だけではなく、画素数を増やしていくことが課題となるでしょう。

――「テレビの革新」という意味では、Cellプロセッサを利用した東芝の“Cellテレビ”からは未来を感じますね。

麻倉氏: 東芝ブースではCellプロセッサを用いてSD解像度の映像をHD解像度にアップコンバートするデモを行っていましたが、これは単純なアップコンバートでは得られない精密な画像を得ることができることを示すものです。Cellは非常にパワフルなプロセッサで、ビデオなら30枚、映画なら24枚のコマの映像間の差異を検出していくことが可能です。

photo

 同社はCellの技術を用いた画像処理コプロセッサ「SpursEngine」も用意していますが、純粋なCellならばこうした処理をリアルタイムで行えます。これまでに作られたSD解像度のコンテンツをHD解像度へ変換できるのはユーザーにとって大きな福音になりますし、CellのパワーからすればフルHDから4K2Kへのコンバートもこなせるでしょう。

「サービス」が必要となるこれからのテレビ

麻倉氏: International CES開幕に先立って行われたCEA(Consumer Electronics Association:全米家電協会)のブリーフィングでは、「これからのデジタルは360度ソリューションが必要になる」という話が出ました。これまでは再生機とコンテンツがあれば事足りましたが、今後は加えて「サービス」が必要になるというのが第2のトレンドです。

 1つの例がパナソニックの発表した、YouTube/Google対応テレビ「VIERA CAST」です。双方とも既にPCから利用できるサービスですが、新製品は「映像ならばPCよりもテレビ」という提案を行っています。それに、テレビ用のYouTube映像はより画質の高いH.264でコーデックされたものです。IPTVという視点では、CBSとソニーの提携も大きな動きです。これまでテレビは放送を見るデバイスでしたが、米国では既に放送視聴よりもDVD鑑賞の需要が上回っており、テレビは家庭内の総合エンターテイメントデバイスに変貌しつつあるのです。

photo 薄さ9ミリを実現したパイオニアのプラズマテレビ

 テレビの薄型化についても新しい潮流が見えました。昨年秋のCEATEC JAPANでは液晶テレビの薄型化が話題でしたが、その数カ月後に行われた今回のInternational CESではプラズマテレビの薄型化が各メーカーから披露されました。日立は37ミリ、パナソニックは24.7ミリ、パイオニアに至っては9ミリです。しかも9ミリは金属プレート込みの厚さであり、パネル自体の厚さはわずか4ミリだそうです。

 4ミリといえば、ソニーの有機ELテレビ「XEL-1」に匹敵する薄さです(XEL-1は3ミリ)。薄いテレビをどのように設置するか考えると、「壁掛け」という言葉がリアリティを帯びてきます。そうなると、次のトレンドは「ワイヤレス」であることが容易に推測できますね。壁に掛けた超薄型テレビからケーブルがぶら下がっているのはいただけませんからね。

 こうしたタイミングで最新規格が発表されたのが、「Wireless HD」です。60GHz帯の無線を利用し、非圧縮でフルHD映像を伝送可能です。指向性の強い電波帯ですが、ビームステアリングという方向変更技術を利用することで、機器間にヒトがいても問題がないということです。

 パナソニックの基調講演では、壇上の坂本氏(松下電器産業AVCネットワークス社社長)がケーブルを目の前で切断してみせるというユニークなデモを行いました。ほかにも、ソニーはイスラエルのAMIMONと共同開発している独自技術、日立はUWBを利用したT-Zeroなど、ここにきてワイヤレスを巡る動きが活発化していますね。

photophoto パナソニックブースで行われていた「Wireless HD」を用いた無線伝送のデモ(左)、あえて“飛ばさない”ことで注目を浴びたソニーの「TransferJet」(右)

 ワイヤレスといえば、ソニーの展示した“飛ばさない”高速無線技術「TransferJet」も大いに注目ですね。画期的なのはハイビジョン信号を複数転送できる速度を実現したことと、新しいインタフェースを提案していることです。これまでのワイヤレスには、非接触であることに起因する「不安さ」がありましたが、TransferJetはタッチすると伝送されるため利用者が惑わないのです。「触る=伝わる」という提案は非常に面白いですね。

 デモが行われていたのは、デジカメからストレージへの画像ファイル転送でしたが、キオスクにPSPを置くと映画の予告編が転送されるといった、これまでにない新しいアプリケーションも期待できます。

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