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CESで分かった2008年のトレンド麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)

» 2008年01月22日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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なぜワーナーはBD支持を決めたのか

――話は前後してしまいますが、International CESの開催前にワーナー・ホーム・ビデオがHDビデオソフトのBlu-ray Disc一本化を急遽決定するというワーナー・ショックがありました。次世代DVDの動向について、International CESの会場からはどのような変化を読み取ることができたのでしょうか。

麻倉氏: 昨年末の「2007年デジタルトップ10」 で私は「東芝はBlu-ray Discを採用すべし」と意見しましたが、東芝からは何もアクションがありませんでした。東芝が生き残るためには、Blu-ray Discの環境にRDシリーズで培った技術とノウハウを投入するべきなのですが……。

photophoto 常に来場者が絶えなかったBDA(Blu-ray Disc Association)ブース

 ワーナーの方向転換ですが、これはなぜでしょうか。それはひとえにユーザーへ混乱を起こさせないためだといえます。ユーザーは2つの規格があると混乱しますが、1つなら混乱は起こり得ません。ワーナーは昨年の段階ではBD/HD DVDのハイブリッドメディア「Total HD」を提案していましたが、ボツにしました。ハイブリッドは2つの勢力が拮抗していないと成立しないものです。

 BDとHD DVDの売り上げは2:1で推移しており、ワーナーはマジョリティ(Majority:多数派)に乗るという手段をとることを判断しました。ここでHD DVDを推進すると、バランスは拮抗してしまい、結果として次世代への移行が進まなくなります。今回の判断についてはいろいろと言われますが、「次世代」の市場をドライブさせるため非常に常識的な判断だったと思います。

 東芝は「残念」とコメントしていましたが、HD DVDプロモーショングループやハリウッドメジャーを含むHD DVD関連企業の取材をキャンセルされてしまい、私も「残念」です。展示会場の両ブースは隣接していましたが、BDブースは常に盛況でしたが、HD DVDブースは人影もまばら。空気という言葉がありますが、まさしく空気が変わった感じです。去年は両陣営の間に戦争的なムードが漂っていましたが、BD側に関して言えば、今年は一転して和やかな感じでした。

 BDAの会見では「ワーナーはいくらもらったんだ?」という質問があり、ワーナーの社長は笑いながら「これから市場が大きくなるというのに、多少の金銭を受け取ることにどんな意味があるのか」と返しました。それだけリラックスした雰囲気が漂っていたということですね。

While life HDTV――冷たいデジタルから、暖かいデジタルへ

麻倉氏: 会場で聞いた話で感動したのが、「Living in High Definition」というキャッチフレーズを生み出した、パナソニックの市場調査プログラムです。北米で任意の家庭に2万ドル相当のハイビジョン製品を渡して自由に使ってもらい、その様子をモニタリングするというものですが、それまで家の中にいてもバラバラに生活していた家族が大画面テレビの前に集まり、ハイビジョンカメラでお互いを撮影しあって楽しむようになったそうです。

photo

 これまでデジタル技術は個人の楽しさや利便性を高める方向に使われてきましたが、ヒューマンな「ふれあい」にもデジタル技術の発展が貢献できるようになってきたという話ですね。機能やシステムが登場して使いこなすのが今までならば、デジタル技術がヒトとヒトの媒介となる「デジタルの第2世紀」が始まったように感じました。

 そこで、私なりに今回のInternational CESを表すフレーズを考えてみました。それは「Whole life HDTV」です。人生、生活のすべてがHDTVと密接に関係するということですね。HDTVがいつでも・どこにでも存在し、ヒューマンファクターとしてヒトへ働きかける――いうならば、冷たいデジタルから暖かいデジタルへの変化の発芽を感じたのが今回のInternational CESでした。


麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作


「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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