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全国民BD化への課題麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)

» 2008年11月19日 08時30分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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 BD搭載製品の種類は増えていますが、「1家に1台」ではなく、ポータブルDVDからポータブルBDへと「1部屋1台」「1人1台」という状態にならなくてはなりません。どこでもBD、つまりは“BDエブリウェア”という状態まで環境整備が進んでこそ、BDはその能力、魅力を十分に発揮できるのです。

 BDを活用する環境整備ということでは、現在のテレビとレコーダー(レコーダー)を接続するHDMIの、切り替えレスポンスの鈍さという問題を解決することも大切です。テレビを見ていて、さあBDソフトを見るぞとリモコンを操作しても、一瞬では切り替わりません。これはHDMIが機器間相互認証を行っているからですが、そのスピードを速めるのが、米Silicon Imageの「InstaPort」(インスタポート)です。あらかじめ認証を済ましておくことで、HDMI機器の切り替えを1秒程度まで短縮する仕組みです。

 このように環境として、快適なBD視聴をサポートするようなテクノロジーが登場したことは注目ですし、来年は、多くのテレビメーカー、AVアンプのメーカーがこの快適化技術を採り入れると見られます。

ホームシアターにとってBDはひとつの終着点

麻倉氏: ホームシアター的な視点からも言及しましょう。ホームシアターはLDの時代から一般化し始め、メディアがDVDになることで、MPEG-2映像とデジタルサラウンドの迫力ある音声を楽しめるようになりました。BDはその流れを加速させます。映像はハイビジョンになり、音声はロッシーから最大7.1chのロスレスになります。体験の懐が深くなる、ともいえるでしょう。直視型のテレビとは違い、投映型で映像を楽しむホームシアターによって、BDはひとつの終着点ともなりえます。

 ともすれば重厚長大な“極める”という方向性も必要ですが、気軽さというニュアンスもまた必要なのではないでしょうか。リビングシアターという観点からすれば、BDプレーヤーやアンプなどをワンボディに詰め込んだ一体型製品や、ワイヤレス化で設置の手間を軽減した製品などが今のところ、市場にないのは残念です。「気軽にBDを楽しむ」という観点を多く含んだ製品の充実を期待したいです。

 ハードウェア全般の展開という観点では、従来にはない、個人を対象としたデスクトップ/カーシアターという製品も欲しいところですね。BDソフトは素晴らしいパワーを秘めているのですから、再生/録画するハードにさらなるアイディアが欲しいものです。

 最近、とあるメディアメーカーへ行く機会があったのですが、先方はBDの2層メディアを1層メディアの2倍以下の価格とすることで、普及促進を狙いたいということでした。25Gバイトの1層メディアでNHK BShiを録画すると録画時間は約130分で、映画を録画する、コンピレーションを作るとなると少々心もとない収録時間です。50Gバイトの2層ディスクならば、録画時間は倍になりますからかなり自由度が増えます。

 例えばシリーズ放送される海外ドラマをエアチェックするとしましょう。作品をどんどん1枚のメディアへ録画していくだけでも2層メディアのメリットは生かせますが、出演者や監督といったキーでコンピレーションを作っていくとなれば、そのメリットはさらに大きなものとなります。

 これまでのエアチェックはアーカイブ化がメインでした。メディアはそれを撮りためる「入れ物」でしかなかった訳ですが、ダビング10と2層BDメディアを組み合わせることで、ひとつの意図で編集された「オリジナルの1枚」を作り上げることがより容易となりました。主役はあくまでも1枚のメディアを作り上げたユーザーであり、録画映像はそれに付随するという、新次元の楽しみですね。

 そう考えると、私はいつても言っていますが、東芝「RDシリーズ」がBDドライブを搭載していないのは重ね重ね残念なことだと思います。コンピレーションマシンとしてのRDは既に完成の域に達していていただけに、本当に残念です。他メーカーのBDレコーダーでも編集は行えますが、編集の容易さ、エアチェックの楽しさという意味では、BDレコーダー市場で東芝製品に匹敵するものはありません。

 デジタル放送の普及とブランクBDメディアの価格低下、こうした要因でエアチェックもより楽しめるようになりました。録画したらHDDに入れっぱなしで編集しない、というのはまさに「もったいない」のです。ダビング10には問題もありますが、これまでに比べれば編集環境が格段に良くなり、よりコンテンツを縦横に活用することが可能となりました。BDの2層ディスクを上手に使いこなしていきたいですね。

麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作


「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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