基本的に、誰もが自分の子どもを守りたいし、他人の子どもであっても、本人の意志に反して搾取されるというのは、誰も好まないことである。そして本来ならば、社会全体で子どもの安全を見守るというのが本筋である。
しかし、それができないような施策もとられている。警察が連日、「不審者情報(声かけ事例)」と称して保護者から通報があったとされる事例を公表するということが続いており、迷子の子どもに声をかけることすらためらわれるようなことになってしまっている。
先日も兵庫県伊丹市で、老人男性が下校中の子どもに「もう家に帰り」と言っただけで事案が発表された。これなどは、第三者による親切な事例かもしれないわけだが、その区別もなく警察に通報されたのでは、もうむちゃくちゃである。「地域社会全体で子どもを見守る(※ただしイケメンに限る)」ようなことになってしまったら、多くの成年男子は子どもを見たらダッシュで逃げなければならない。
社会が子どもを育むことに関して、逆に萎縮効果を与えるような施策が平行して進行しているのは、問題である。人口の少ない地域では、登下校時の子どもの見守りなどの地域活動を行なっているところも少なくないが、東京ではなかなか難しい。しかし、それは地域を細かく分けてでも、もはや、やっていかなければ仕方がないところまで来たのだと思う。
「隣は何をする人ぞ」といった自由奔放な東京での暮らし方も、もはや社会がそれを容認できなくなったということなのであろう。ちゃんとした大人がきちんと目を配れる地域社会と呼べるものを形成できれば、本来は規制など必要ないはずである。
筆者も東京にはずいぶん長いこと住んだが、東京都はそういう地域社会を作ることを、これまで怠ってきたのではないのか。そのツケを規制でカバーしようとすると、ずいぶん暮らしにくいことになるだろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。
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