11月某日、N編集長に突然声をかけられた。
「キミ、ガンプラ作ったことある?」
――はい。
「じゃ、これ」
取り出した紙に書かれていたのは、「PG 1/60スケール ダブルオーライザー」という言葉。PGといえば、数あるガンプラの頂点に立つ「パーフェクト・グレード」。1/60スケールに内部骨格から稼働部位など細部にいたるまでリアリティを追求し、さらに劇中の演出をLEDなどのギミックを使って再現するという“究極のガンプラ”である。しかも、ダブルオーライザーは12月発売の新製品だ。
聞けば、新製品のプロモーションを兼ねたメディアごとのサンプル制作に参加するという。つまりは会社代表としてPGに挑むことになるのだが、入社1年目の新人(しかも営業部)に、なぜそのような大役が回ってくるのか。
「キミ、学生時代は『鳥人間コンテスト』に毎年参加して、入賞歴もあるって話してたじゃない」
面接で余計なことを口走っていたらしい。
そういえば、N編集長は「取材」の名目で静岡のガンプラ工場にまで乗り込み、記事は部下に書かせておいて、自分は黒い欲望(エコプラ購入)を満たしたというウワサもあるガンダム好き。他人をのせるのがうまいとも聞く。
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もちろん、こちらとしてもPG制作に興味はあるし、内心はかなりうれしい。しかし、ガンプラを作るのは実に6年ぶりで、しかも相手はパーフェクト・グレードだ。時間がかかるのは覚悟しなければならない。
――これ、業務時間に作ってもいいですか?
にこやかにスルーしたN編集長は、「キミがガンダムマイスターだ(職人?)」と言い残して去っていった。
12月某日、編集部に待ち望んだガンプラが届いた。その瞬間、この仕事を安請け合いしたことを激しく後悔し、週末が全てガンプラ製作でツブされることを覚悟した。
まず、箱がでかい。そしてこのパーツの山。総パーツ数は1031個もあるらしい。直径約1メートルの丸テーブルに山ができてしまうほどの量である。1人では絶対に締め切りに間に合わないと察し、かつての鳥人間仲間に招集をかける。
――パーフェクトグレード、一緒に作らない?
こんな誘いで4人も集まった。非常にありがたいことだが、他にすることはないのか。24歳男子がクリスマス前だというのに。
実際に製作を開始すると、ガンプラは複数人で作るものではないと痛感する。
「説明書勝手にめくるな」
「うるさい。魂込めてるんだから少し待て……あ、間違えた」
全員、本気(マジと読む)である。さすがにガンプラを作るためだけにわざわざ集ったマイスターたち。それぞれに美学を持っていて譲らないから、面倒なこと、この上ない。
上の写真を見てほしい。少し分かりにくいが両方とも右腕だ。右腕と左腕の説明ページが別になっていることに気づかず、2人同時に右腕を作ってしまった。
「なんという失態! そっちを分解して作り直せ」
「いや、こっちの方がキレイに作れてるし」と紛争ぼっぱつ。
マイスターたちは、不完全すぎた。
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