ごく小さい電子機器とその製造技術を意味する「MEMS」(Micro Electro Mechanical Systems)は、言い換えれば「半導体生産技術の応用で製作された微小なメカ」だ。一般的な半導体は平面的だが、MEMS機器は立体的な構造を持ち、しかもなんらかの可動部を備えているとされる。そのMEMSが、近年応用範囲を広げつつある。
これまでもMEMSはインクジェットプリンターのヘッド部分などに利用されてきたが、小型で高機能な部品を一括形成する技術(マイクロマシニング技術)の改良などにより製造コストが低下。いまや携帯電話などのデジモノ家電でも、加速度センサーやジャイロスコープといったMEMSデバイスの採用が進行している。
ディスプレイの分野にも、MEMSの採用事例が現れ始めた。日立ディスプレイズが「CEATEC JAPAN 2010」に参考出品したLEDバックライト液晶パネルは、米Pixtronixが開発した「MEMSシャッター」と呼ばれる微小なシャッターを採用、画素ごとに設置した微小なシャッター高速に開閉し、光量を制御することで、透過率の飛躍的な改善に成功している。
この方式では、偏光フィルムやカラーフィルターといった液晶ディスプレイに必須の部品が必要ないため、バックライト光の利用効率は一般的な液晶パネルの約10倍にまで改善。透過率も一般的な液晶パネルが6〜8%のところ、MEMSシャッターを採用した薄型パネルでは60%以上にも達するとのことだ。透過率の向上は液晶パネルのエネルギー効率改善に直結するため、消費電力は従来型液晶パネルに比べ半分以下に減少、さらなる改善も見込まれている。同社では、低消費電力のニーズの高いスマートフォンやタブレット型携帯端末、デジタルスチルカメラ向けの次世代ディスプレイとして量産を目指す。
MEMSシャッターの採用により、薄型パネルにはもう1つの可能性が現れた。MEMSシャッターを開発したPixtronixは、これまでに「反射型ディスプレイ」に応用可能な技術であることを明らかにしており、そうなるとバックライトを使わず外光を反射して描画することが可能になる。
この技術が実用化されると、薄型パネルの電力消費量は大きく減少する。バックライト有効時は動画や写真を楽しみ、無効時は電子ペーパーに匹敵する省電力動作モード、という使い方も見えてくるはず。電子書籍の普及間近といわれる昨今、大きな利点を備えた表示装置といえるだろう。
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