リンの「AKUBARIK」は、値段もサイズもKEFやクリプトンとは段違いだけれど、最近聴いた高級スピーカーの中でもその音のよさで突出した魅力を持つすばらしい製品だ。
AKUBARIKは、各ユニットがインライン配置された5Wayフロアスタンディング型システム。それぞれのユニットを駆動する片チャンネルあたり5基のパワーアンプが内蔵されている。興味深いのは、最低域を受け持つウーファーにリンが1973年にパテントを取得したアイソバリック方式が採られていることだ。これはエンクロージャー底面に向かい合わせに配置した2基のウーファー(本機の場合は20センチ)をタンデム駆動することで、スピーカーの内圧の影響を抑えてより素直な低音再生を実現するという技術だ。
また、各ドライバーを駆動するパワーアンプには、これもリンのオリジナル技術であるチャクラ・テクノロジーが投入されている。これはモノリシックICとバイポーラトランジスタを組み合わせて出力段を構成し、それぞれの出力素子を適応的に使い分けて高音質とハイパワーの両方を追求するという手法。
先述のようにアクティヴ型スピーカーならではのメリットの一つに、きめ細かな音質調整が可能なことが挙げられる。本機では、3Kアレイと呼ばれるシャモジ型のプレートに取り付けられたミッドレンジ/ツィーター/スーパーツィーターの3つのドーム型ユニットが0.5dBステップでレベル調整でき、低域のレベルは−7dBまで落とすことができる。また、最低域のロールオフ周波数は、60Hz/40Hz/19Hzの3段階の切替えが可能だ。
スピーカーの周囲に空間をたっぷりと与えて聴くこのスピーカーの魅力は、筆舌に尽くしがたい。音楽の熱と力、演奏者の陰影に富んだ表情をみごとに描写するのだ。試聴した部屋では当初低音の量感が過多で、ヴォーカルの明瞭度が足りない印象だったけれど、最低域のロールオフ周波数を19Hzから40Hzに、低域のレベルを少し下げ、ミッドレンジのレベルを0.5dB落とすことで、とてもスムーズなサウンドが得られた。部屋のクセや再生する音楽の個性に合せて、自在に音質をコントロールする愉しみをたっぷりと味わえるのも本機ならではの魅力と言っていいだろう。
ペアで252万円という一見とても高価なスピーカーだが、合計10チャンネル分の高性能パワーアンプと音質劣化の心配ないデジタル・イコライザーが一緒に付いてくると考えると、これはこれで納得できる価格といえるかもしれない。スピーカーは、多くのデジタルAV機器と違ってなかなか陳腐化しないジャンル。ほんとうに気に入った良いものを買っておけば、一生添い遂げることだってできる。そんなことを改めて気づかせてくれるすばらしいスピーカーがAKUBARIKである。
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