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» 2015年03月10日 20時42分 公開

「4Kではできない、を潰していく」――4K番組制作の現場 (2/2)

[天野透,ITmedia]
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4Kならではの難しさ

 こういった前向きな環境変化が報告される中、逆に環境が整っていない部分や、4Kならではの難しさを指摘する報告も多数あった。中でも4K編集環境の不足は番組制作におけるボトルネックだ。例えば日本テレビが製作したドラマ「殺人偏差値70」では、他の番組編集がなかなか終わらないために同番組の編集作業が遅れるというトラブルがあった。

 またケーブルテレビの現場では、4K編集環境自体がないケースもまだ多い。このような問題点を解決するため、ケーブルテレビ連盟コンテンツ・ラボでは、ケーブルテレビ局向けの4K編集環境を開発中だ。「2015年にはケーブルテレビでの4K放送開始を目指している。それまでにコンテンツを貯めこむことは非常に重要。小規模な局でも4K編集ができる環境を開発し、ケーブルテレビへの4K普及を促進したい」(田中氏)。

BSジャパン「追え!光のメッセージ 4K映像で迫る生物の輝き」制作者の意見。画質を求めるのか、内容を求めるのか選ばなければならない場面が多く葛藤したという

 制作環境が日々進化する中、それを扱う技術は4K特有の難しさがあるという指摘の声も多い。「追え!光のメッセージ 4K映像で迫る生物の輝き」を制作したBSジャパンの鈴木拓也氏は「4K撮影はレンズワークが難しい」と語る。「例えば今回の場合、最小で2ミリという小ささの被写体を高精細に撮影することが求められ、レンズをリバース(逆付け)することで対応した。これはスチルカメラで用いられる超マクロ撮影の手法だが、こういった問題解決に対する知識量によって得られる映像が大幅に変わる」(鈴木氏)。直接的には撮影をしないディレクターであっても、撮影術に対する多くの知識が求められるという。

「ニッポン釣り四景」撮影環境と課題。撮影に対する技術的な難しさや機材の進化を望む声も相次いだ

 またJリーグ中継では、スタジアムによって環境が違うため、4Kが生きる中継ポイントを手探りで探している状態だ。サッカー会場は専用スタジアムと陸上競技場の2種類があり、会場によってカメラを置けるスペースが変わる。また、広くピッチを見渡す画と、選手やプレーをクローズアップする画が同じカメラに求められるため、カメラ配置やレンズ選択にも工夫が求められるという。さらに高精細であるためにフォーカシングはシビア。スカパー・ブロードキャスティングの上原聖治氏によると「日本最高峰のスポーツ中継陣に撮らせても、フォーカスアウトが連発した」という。

 ドラマ「殺人偏差値70」の制作現場からは、「4Kは“映りすぎる”のが難しい」という声も上がった。これは、撮影中に意図せず高橋克実さんの頭頂部の産毛が映り込んだため。「レンズワークとして“見せたいものだけを見せる”という手法が必要」という。かつてハイビジョン導入時に、女優のシワを隠すために「ハイビジョン対応メイク」なるものが導入されたことと同じ構図だ。また、ドラマでもフォーカス合わせが難しいのは同じ。クリエイターから「表現の幅を広げるためにパンフォーカスができるレンズが欲しい」という意見も出たという。

 こういった難しさがあっても、制作者たちは4Kが持つポテンシャルに期待している。「コンクリート時代」を制作した電通の塚本拓也氏は、遠くの雲など、奥行きがあるものに対してのディテールが凄いという。その上で「4Kが高精細であるからこそ生きてくるものがある。例えばテレビが風景を映す窓となるなど、従来のテレビが持っていた体験が変わってくるだろう。企画が2Kの時と同じでも、演出は4Kにマッチしたものにするといった工夫が必要だ」(塚本氏)。

 4K制作を機に、新たな活用を模索する動きも起こっている。例えばテニスの錦織圭選手が出場したWOWOW制作の「有明コロシアムドリームマッチ」では、4K、2Kを同時放送するサイマル生中継を実施した。撮影は4Kで、2K放送はリアルタイムのダウンコンバートで対応。その際、ストレートに2Kへ落としただけではジャギーが出るため、特殊なフィルタをかけるという。

 逆に4Kになっても変わらないものもあるようだ。「コンクリート時代」を制作した塚本氏は、「2Kとは違う体験を作っていきたい」とする一方で、「従来の制作姿勢が重要であるということは変わらない」と指摘。スカパー・ブロードキャスティングの上原氏は、視聴者がサッカー中継に求めるものは、「試合の流れが把握しやすいこと」や「迫力あるプレーが見られること」であり、「広いピッチを見渡したり注目のプレーをスーパースローで捉えたりといった従来のサッカー中継のスタイルを崩すことなく制作した」と話している。その上で「スポーツが持っている、一瞬の良い画というものを求めていくことは変わらない」と語った。

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