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ルンバはなぜ丸い? どうしてサイドブラシは1本?――スタイルを変えないiRobotの意図iRobot研究(3)(2/2 ページ)

» 2015年03月25日 15時56分 公開
[ITmedia]
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 “あるもの”とは、「ダストボックス」だ。ゴミ捨て作業など人間がメンテナンスを行う頻度をなるべく下げるため、iRobotはルンバの新製品を出すたびにダストボックスの容量を大きくしてきた。800シリーズでは、後部にできた隙間を「そのままダストボックスの拡充に利用した」(キャロン氏)ことで、従来機「700シリーズ」に比べて1.6倍の容量を確保。同時にダストボックス内のモーターを端に設置して内側が見やすくなり、ゴミも捨てやすくなった。さらにHEPAタイプのフィルターを従来の2枚から面積の大きい1枚に削減。これもメンテナンスの手間を削減することにつながる。

ルンバ「800シリーズ」のダストボックス。HEPAタイプのフィルターは1枚になった

 このように、iRobotの基本的な考え方は、運用シーンにおいて人が介在する場面をなるべく減らしていくこと。確かに、人の代わりに掃除をするロボットなのに、ロボットを掃除するために人が手間をかけては本末転倒だ。ルンバの進化は、常に“人が関わる時間を減らす”という方向に向いている。

左は2013年に発売されたルンバ「600シリーズ」のダストボックス、右は2014年発売の「800シリーズ」。いずれも現行モデルだが、容量はかなり違う

 こんなエピソードがある。近年登場した競合製品の多くが「ダストボックスが丸洗いできる」ことを売り文句にしていたため、ルンバを日本で販売しているセールス・オンデマンドは、iRobotに「ルンバのダストボックスも洗えるようにできないか」と問い合わせた。すると返ってきたのは「本当にそれがロボット掃除機のあるべき姿なのか?」という問いかけ。“ロボットが掃除をする”ということは、人の手間を省き、自由な時間を作ることだ。であれば、ゴミ捨てや水洗いなどに人の手を介さない方が、より“あるべき姿”に近いのではないか。

サイドブラシは2本必要?

 「ダストボックス丸洗い」と同じように、ほかのロボット掃除機メーカーがさかんにアピールしているのがサイドブラシの数だ。サイドブラシは、ロボット掃除機の吸引口が届かない壁際を掃除するためのもので、回転することでゴミをかき出し、吸引口に導く役割を持っている。ルンバは初号機から一貫して左側に1本だけ搭載しているが、多くの製品は2本として両サイドから“かき込む”動作を行う。確かに、より効率的に掃除できるように見えるが、iRobotは否定的だ。

サイドブラシは右側に1本だけ

 それはサイドブラシの動きを見ると分かる。ブラシの回転でゴミを寄せられるのは、斜め前方から本体にかかるまでの1/3回転程度に過ぎず、そのほかはむしろゴミをかき回してハウスダストを巻き上げてしまっている。ルンバの場合、壁際を掃除する際は必ず右側面から近づくようにプログラムされているため、サイドブラシは右側にあればいい。逆に増やすと散乱するゴミが増えてしまうのだ。

 またサイドブラシ付きのロボット掃除機を使ったことのある人なら分かると思うが、回転するサイドブラシは長い髪の毛などが絡まりやすく、定期的に取り除く必要がある。多くの場合、ドライバーなどを使ってブラシを本体から取り外してメンテナンスを行うが、あまり気持ちの良いものではない。

 iRobotのCEO、コリン・アングル氏は、ルンバを開発した背景について、「ロボットの開発を進めるうち、人間の嫌がる“DDD”、すなわちDull(退屈)、Dirty(不衛生)、Dangerous(危険)な作業を代替えすることに需要があると気づいた」と話している。家庭内にフォーカスすれば、退屈でつまらない仕事、きたない仕事を担当する、というのが同社製ロボットのミッションだ。「お掃除のように、マイナスをゼロに戻すだけの作業はロボットが担当し、人はプラスのポジティブな部分をやればいい」(同氏)。

 ルンバ「800シリーズ」では、ドライバーが手元になくてもサイドブラシが外せるよう、10円玉などでも取り外せるようになった。また従来機ではブラシに絡まった髪の毛などを切るためのカッターをパッケージに同梱(どうこん)していたが、800シリーズでは廃止した。前述の「AeroForce エクストラクター」によって不要になったという判断だ。

従来はサイズのあうドライバーが必要だったが、800シリーズは10円玉などでもサイドブラシを取り外せる

 もちろん、800シリーズでもメンテナンス時間をゼロにできたわけではない。ただ、見た目はあまり変わらなくても、同社の“DDD”のミッションに向け、ルンバが着実に進歩していることは確かだ。

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