若者はなぜ生きづらいのか?――社会学者、鈴木謙介氏インタビュー(前編)2030 この国のカタチ(5/5 ページ)

» 2010年04月27日 12時56分 公開
[乾宏輝,GLOBIS.JP]
前のページへ 1|2|3|4|5       

機能不全のシステムを回し続ける不幸

 続いて3点目です。これは人口の問題にかかわります。ここではその中の3つの要素についてお話しします。1989年以降のバブル破たん、1990年代の就職氷河期、そして超氷河期という就職が非常に厳しい状態が続くわけです。この時に就職不況に直面したのが、1970年代前半生まれの第2次ベビーブーマーから、その下の世代、だいたい団塊ジュニアからポスト団塊ジュニアと呼ばれる世代に重なっていたことが、日本独自の不幸を生みました。

 彼らの親は、まさに先ほど述べた高度成長モデルの中を生き、その価値観を内面化してきた世代です。だからその子どもたちが就職できない状況に直面したとき、自分たちの人生は親が経験してきたモデルと比べて不完全であり、「得られるはずのものが得られなかった」という、強い落差を感じる状況に陥ってしまったんです。親の時代には普通だったことが、自分の世代では普通ではなくなった、ということを社会全体が理解するまでに、とても長い時間かかってしまったっていうことですね。これは2000年代前半の一時的な「若者バッシング」の遠因ともなり、若年雇用対策を遅らせてしまう結果にもつながりました。

 2つ目の要素ですが、その中で、就職氷河期が続きます。多くの学生たちが、「まだ何とか“普通”のモデルに乗っかれるだろう」と考えた結果、狭くなったパイを巡って争うことになります。

 「パイが狭くなっているのに、ほかの生き方はない」と信じられていると、「就活で求められる“良い学生モデル”に自分を合わせていかないと、就職できないんじゃないか」という不安が強くなります。「カラーシャツはダメなんじゃないか」とか「何でもやりますって面接で言わないとダメなんじゃないか」といった風に、これまで以上に企業が求める人材スペックに自分を合わせていく。雇用環境の悪化が、いわゆる高度成長モデルで完成した新卒一括採用であるとか、そうした企業の採用の枠組みを維持していく方向に作用してしまうという逆説が生じてしまったんです。

 不景気になればなるほど、システムを批判するのではなく、システムに自分を合わせようとしてしまう。ありがちな話ですけれども。そうしたことが起こってしまったことによって、さらにその高度成長モデルというのが延命されてしまいました。

 最後の要素です。同時にその頃には、ITブームをはじめとして、新産業に向けた新しい動きが起こっていましたが、2000年代前半のITバブル崩壊、そしてライブドアショックに至るまでの流れの中で、最終的に大きな実を結ばなかったという話です。

ライブドア元社長の堀江貴文氏

 就職ができなかったことによって、就職している人たちは何とか会社に自分を合わせていこうという風になったわけですが、それでも職に就けなかった、ある種はみ出た人たちが、自分たち独自の価値観でビジネスを起こし、維持、再生産する環境を結局作ろうとしたのだけど、結局作れなかった。作った人たちもいますけれども、大きな流れになり得なかったっていうことが、とても大きかったと思っています。

 その背景には、例えばベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が非常に貧弱であったこと。ベンチャー企業自身に、きちんと自分の業務を評価するような、客観的な視点がなかったということ。同世代の都会に集まってきた人たちが中心でしたから、どうしてもビジネスの生まれ方が内向きになってしまったこと。いろんな条件はあったでしょうけれども、当人たちの責任も社会の責任も含めて、結局そうした新産業が、雇用から排除された若者の最終的な受け皿になり得なかったわけです。

 この3つぐらいの条件というのに直面し、とっくに機能不全に陥っているシステムが、ゾンビみたいになって生き長らえている、「うまく回っていることにしてしまおう」みたいな感じで生き残り、それ以外の道が見えない。あるいは、「もうこれじゃダメだ」と思っているけれども、ほかにないんだというような感じであきらめざるを得ない。いますよね。大学2〜3年ぐらいまでは調子いいことを言っていた奴が、3年の夏ぐらいから突如真面目な就活生に変わってしまうという(笑)。そういう学生の状況が、システムがいかにゾンビ化しているかを、物語っていると思います。

 →仕事で自己実現ってホントにOK?――社会学者、鈴木謙介氏インタビュー(中編)

鈴木謙介(すずき・けんすけ)

関西学院大学准教授。国際大学GLOCOM研究員1976年福岡県生まれ。専攻は理論社会学。インターネット、ケータイなど、情報化社会の最新の事例研究と、政治哲学を中心とした理論的研究を架橋させながら、独自の社会理論を展開している。2005年の『カーニヴァル化する社会』(講談社)以降は、若者たちの実存や感覚をベースにした議論を提起しており、若年層の圧倒的な支持を集めている。

2006年より、TBSラジオで「文化系トークラジオ Life 」のメインパーソナリティをつとめており、同番組は2008年、第45回ギャラクシー賞ラジオ部門において大賞を受賞。2009年からは、NHK教育テレビにて放送の「青春リアル」において、若者たちが語り合う「リアル・タウン」の「町長」として番組に参加している。著書は『サブカル・ニッポンの新自由主義』(筑摩書房)ほか多数。


乾宏輝(いぬい・ひろてる)

GLOBIS.JP副編集長。1979年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、読売新聞東京本社入社。記者として、神戸、川崎、横浜支局で、警察、行政、司法などを担当。阪神大震災遺族取材、JR福知山線脱線事故、新潟県中越沖地震といった災害取材にも携わる。2008年より現職。関心のあるテーマは、ビジネス、社会、メディア、思想、アニメ、ゲーム、浜崎あゆみ、B級グルメ。


関連キーワード

就職 | 子供 | 先進国 | お金 | 氷河期 | 学生 | 格差 | 不況 | 失業


前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.