Google+はクラウド時代のトモダチコレクションなのか?(3/3 ページ)

» 2011年07月13日 11時45分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研
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 しかし、Google+が、こうした彼らの社是にもとづいて作られたものかどうかは不明である。Googleの一挙手一投足は、アナリストやジャーナリストたちに詮索されまくるが、本当のところ、それがきちんとした理念や戦略性のもとに描かれたシナリオかどうかは、どうも怪しいと言わざるをえない。

 むしろとても「理念的な会社」なのは、Facebokではないかと思う。Facebookは、さまざまな他社サービスのエッセンスを吸収しながら大きくなってきた建て増し建築のようなものだ。けれども、誰もそのようには言ってはいないが、その根幹にはGoogleの社是以上に強力なビジョンというものがある。

透明性を重視するFacebookと、「あやふや」なGoogle+

 マーク・ザッカーバーグは、「世界がますます透明な方向へと動いていくことは、次の10年、20年に起きる変革のほとんどを後押しするトレンドになるだろう」と述べている(『フェイスブック/若き天才の野望』デビット・カークパトリック著、滑川海彦・高橋信夫訳、日経BP社刊)。彼らは「透明性」(transparency)という言葉を使って、自分たちがネットのトレンドの中心にいると主張しているのだ。事実、そういうトレンドにはまった企業が、どの時代でも成功してきた。

ソーシャルメディアをその機能から分類する試みは、2〜3年ほど前からさかんに行われている。目的やジャンルなどによって10種類以上に分類している例もあり、いかに米国が「ソーシャル」で動きはじめているかが分かる。しかし、重要なのは人の関係性の部分であり、ここでは日本で馴染みの深いいくつかについて、最もシンプルな模式図を作ってみることを試みた。

 それのために、「実名性」や、それ以上に関係性が「事実」であることに彼らはこだわっている。人がポツンと1人いるだけでは、何かが始まることは少ないので、「関係性」がとても大切になる。彼らは、「人間関係まで含んだ住民基本台帳」を作ろうとしているみたいなもので、さぞかし価値のあるものになるだろう。しかし、個人的な感想を述べさせてもらうと、この「透明性」というのが息苦しいような気がしないでもない。

 それに比べて、Google+の「サークル」はとてもあやふやなものだ。Google+に加入していない人を、自分で作ったサークルの中に入れておくことだってできる。例えば「カレー好き」というサークルを作って、勝手にカレー好きとおぼしき知り合いを入れておく。クラウド時代のトモダチコレクションとでもいうべきか、あくまで利用者のための「クラスター識別タグ」がサークルなのだ。

 Google+は、とりあえず用意できる土台やラウンジや調理場をつなぎ合わせた「書き割り」のような世界だといえる。だからというのもあるかもしれないが、プログラミングは天才的だがどこか抜けがあったりもするGoogleのほうが、まだ呼吸しやすい気がするのである。

 単純に、サークルやビデオチャットをうまく使うと、グループウェア的なコラボレーション作業ツールとして重宝しそうでもある。「Picasaのソーシャル化」かもしれないと書いたが、Google DocsなどのGoogleの既存サービスを、ソーシャルで使いやすくするという話でもあるかもしれない。テクノロジーの世界はとてもアナーキーで、ベタベタした人間関係になんかあまり興味がない。その真骨頂ともいうべきGoogleは、たかだか利便性のため程度にしか、人と人の関係を捉えていないのかもしれない。

 もっとも、これは現時点のGoogle+の話であって、AdWardsやAdSenseが入る前のGoogle検索のような段階である可能性も高い。

 FacebookにあってGoogle+にないものの代表は、「Facebookアプリ」だ。「Google+アプリ」なるものがあるとすると、どんな位置づけのものになるのか? それは「Chromeアプリ」や「Chrome OS」とどう関係してくるのだろうか? 人と人の関係までをも、OSというものが吸収してしまうのだろうか? 我々は、クラウドやスマートフォンの登場で、新しいコンピューティングの目の前に立っている。【遠藤諭、アスキー総合研究所】

遠藤 諭(えんどう さとし)

ソーシャルネイティブの時代 『ソーシャルネイティブの時代』アスキー新書および電子書籍版

 1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』(アスキー新書および電子書籍版)、『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。

 コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。


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