今まで書いてきたことの多くは、採用担当者が自分自身をブランディングする策であるといっていいでしょう。美人事である、採用の虎であるということは、彼らにとってとても大切なのです。理由はいくつもあるのですが、代表的なものを2つ、簡単に整理しておきましょう。
まず、美人事に関しては、多くの場合「仕事と割り切ったブランディング」です。彼女たちの所属する企業は、知名度も高くなく、規模も小さいというケースが少なくない。単純に社名をあげ、仕事内容を伝えるだけでは、なかなか就活生をつかまえることができない。自分たちが目立つことによって、異性はもちろん、同性からの憧れ(美人事は女性に好かれるケースも多いのです)や関心を引くこともできますし、目立つのでメディアにも取り上げられやすい。結果として、彼女たちの会社から与えられたミッションである「よい学生を採用する」ということに大きく貢献するのです。ただそのやり方には、賛否両論あると思います。が、少なくとも彼女たちの多くは、仕事として熱心に取り組んでいる人が多いことは忘れてはならないのです。
もう1つ。虎や鬼系の人たちの意図は少し違います。彼らの意図は、業界での自分のプレゼンスの向上です。そう、自社ではなく、自分の価値を高めることが目的になっているケースもあるのです。理由は簡単で、目立つことでお座敷がたくさんかかるから。例えば、採用担当者が集まっていろんなことを勉強するというセミナーの講師たちの顔ぶれを見ると、いつもだいたい似たような人が並んでいます。そして驚くことに、自社はこういう採用をしていることを他社の採用担当者に教えているのです。名物になっている人もたくさんいて、その人が話すとツイッターの実況などで「出た、〇〇節炸裂!」と、他社の採用担当者がつぶやく、といった不思議な光景が繰り広げられるのです。
ちなみにこれらのセミナー、謝礼が貰えるものもありますが、多くは交通費程度。つまり虎や鬼たちの目的は、目先のお金ではありません。彼らの多くは、こういう場所で話をしておくことで、自分の身に何かあった時に、次の一手が打ちやすくなることを知っているのです。別にこれは新卒採用の世界に限ったことではありません。エンジニア領域、マーケティング領域などを中心として、メディアやいろいろな団体が、さまざまなセミナーを仕掛けて、人を集めて事例を共有して、勉強をすることがとても流行っていますが、それと同じなのです。そこで話せるということは、「業界で認められている=もし、転職したいと思っても、すぐに声がかかる」ということなのです。
当然「いまの就活はおかしい、なんとかしたい」という思いで話している結果が、自分のブランディングになったのだという話なのでしょうが、ブランドが確立するほど長い間、意義を唱えても仕組みが変わらないなら、その仕組みに合理性があったか、もしくは異議を唱えるアプローチが間違えているか、そのどちらかです。結果として、女性に美人事という役割を与える必要があるところまで、いびつな形になってしまった就活は、当事者である企業から見直す必要があるのに、王子と呼ばれていて良いのかと、新卒採用の周辺に身を置くものの一人として、ここでつぶやいてみるのです。
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