「iida」が秘める可能性と、目前の課題:神尾寿のMobile+Views(2/2 ページ)
KDDIが“auらしさを取り戻す”ための取り組みとして展開するのが、新ブランドの「iida」。“デザインのエコシステム構築”を目指すという視点は注目すべきものだが、そこにはいくつかの課題もありそうだ。
iidaに存在する3つの課題
iidaはケータイの在り方や価値観が変わろうとしている現在の端境期の中で、その変化をデザインや文化の側面から促進する“きっかけ”となる可能性を秘めている。しかし、厳しい見方をすれば、今のiidaには大きく3つの要素が不足している。
まず、1つ目の課題は「コンテンツ/サービスとの統一感」だ。現時点のiidaは、端末や周辺機器といったハードウェア中心の取り組みであり、そのプロジェクトチームもプロダクト部が中心だ。しかし、iidaが目指すものが“世界観やエコシステム”であることを考えれば、モバイルとPC向けの両方でiida向けのプラットフォームを構築し、ハードウェアとソフトウェア、サービスが統一性を持って連携する必要がある。
Appleなどは、iPhoneとMacでまさにそれを実現しているが、現時点でのiidaはそこが中途半端なままリリースされてしまっている。KDDIは早急にこの問題を解決しないと、せっかくのiidaが、“auの単なる化粧直し”にしか見られなくなってしまうだろう。
2つ目の課題は「独自の販売チャネルがないこと」だ。iidaのように世界観を売るためには、そのポリシーをしっかり伝えられるユーザーとの接点が不可欠だ。高橋氏によると「iidaに関わっているスタッフは、『iidaショップを出すのが夢』だといっている」そうだが、iidaのように新たなブランド提案をするのならば、iidaショップを作ることは夢ではなく大前提だ。auショップや家電量販店で、auに埋没しながらiidaを見せても、そのコンセプトや価値がしっかり伝わらないだろう。
さらに踏み込んでいうと、iidaショップは直営店とし、KDDI社員が運営する形が望ましいだろう。実際、Apple Storeも店員の大半がAppleが直接雇用する社員だ。販売店の直営化はブランド価値を伝える上でも重要であるし、そこから得られるフィードバックはユーザーと開発チームとの距離を縮める効果が大きい。まずは東京からでもいいので、iidaの直営ショップを早急に作るべきだ。
そして、3つ目の課題は「auブランドとの関係性」だ。KDDIでは今回のiidaを、auとは別のブランドと位置づけている。しかし、その一方で、同社の小野寺社長や高橋氏はiidaを「auらしさを取りもどす活動の1つ」とも位置づけており、auとiidaの関係性は今ひとつすっきりしていない。NokiaとVertuのように完全に切りはなす必要はないが、両ブランドの方向性と関係性を分かりやすく整理しておく必要があるだろう。
“デザインのエコシステム構築”に大きな可能性
このように課題はあるものの、「iida」の取り組み自体は、今後のモバイルICTビジネスの拡大と市場の活性化の両面で価値のあるものである。特に最大手のNTTドコモと異なる手法で、新たなプロダクトやサービス、ビジネスの可能性にチャレンジしていることが評価できる。
筆者は7日の夜に行われたiidaのレセプションにも参加し、そこに多くのデザイナーが集い、熱気にあふれる様子も目撃した。iidaが彼らデザイナーに支持されるプラットフォームに育てば、AppleやMicrosoft、Google、ドコモなどが取り組む「ソフトウェアやサービスのエコシステム」とはまったく別軸の「デザインのエコシステム」が構築できるかもしれない。それは日本のモバイルICT産業の国際化において、1つの武器になりえる。
iidaの目下のミッションは傷ついたauブランドの建て直しであるが、それにとどまることなく、“デザイン”と“未来のライフスタイルの創造”で、世界をリードするものに育ててほしい。iidaの今後を期待を持って見まもりたい。
著者プロフィール:神尾 寿(かみお・ひさし)
IT専門誌の契約記者、大手携帯電話会社での新ビジネスの企画やマーケティング業務を経て、1999年にジャーナリストとして独立。ICT技術の進歩にフォーカスしながら、それがもたらすビジネスやサービス、社会への影響を多角的に取材している。得意分野はモバイルICT(携帯ビジネス)、自動車/交通ビジネス、非接触ICと電子マネー。現在はジャーナリストのほか、IRIコマース&テクノロジー社の客員研究員。2008年から日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員、モバイル・プロジェクト・アワード選考委員などを勤めている。
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