あの感動、再び――Appleは新たな時代に踏み出した:神尾寿のMobile+Views(3/4 ページ)
6月10日(現地時間)に開催された「WWDC2013」では、OS XとiOSの新バージョンが発表されたほか、「MacBook Air」と「Mac Pro」のモデルチェンジが行われた。WWDC 2013で示された未来とは――。キーノートから読み解いていきたい。
思わず溜め息がもれる美しさ――iPhone登場の感動、再び
そして、「iOS 7」である。
周知のとおりiOSは、iPhone用のOSと始まり、その後、iPod touchやiPadにも広く採用された。iOSはこれまで一部のユーザーしか使えなかったスマートフォンを多くの人々が使えるものにし、“スマートフォンの大衆化”を促すきっかけとなったOSである。Androidをはじめ現在のスマートフォン/タブレット用OSの基準点にして、メートル原器のような存在が、AppleのiOSであることは多くの人が認めるところだろう。
しかし、iOSはそのデザインがあまりに完成度が高く優れていたこと、iOSデバイスの累計販売台数が6億台に達するほど広く普及したことなどもあり、進化はすれど大きな変化はせずにここまで来た。この連続性を重視した進化の舵取りは、iPhone/iPadの優位性だったが、iOSも登場から5年余りが経過し、基本デザインやコンセプトを刷新する時期に入った。そこで満を持して投入されるのが、今回発表されたiOS 7である。
このiOS 7についてクック氏は「最初のiPhoneを発売して以来の大規模なアップデートで、素晴らしいユーザーインタフェースを搭載する」と紹介。そして、キーノート会場内のスクリーンに、iOS 7の映像が流れ始めた。映像の中で、Apple インダストリアルデザイン担当シニアバイスプレジデントであるジョナサン・アイブ氏が、Appleが目指すシンプルさについて話し始め、iOS 7の姿が少しずつ明らかになっていく。会場全体が息をのみ、そして広がっていったのは感嘆の溜め息であった。
とにかく美しいのである。
Appleが目指した方向性は「シンプル」。これは最近のUIデザインのトレンドであり、今回のiOS 7が初めてというわけではない。しかし、まるで薄くて透明なステンドガラスを重ね合わせたようなアイコンやメニューの表示画面。ひとつひとつが上質で、滑らかな動きをするアニメーションの数々。そして余白の持つ、凛とした緊張感まで計算され尽くされたかのようなUIデザインは、これまで見たことがない完成度なのだ。個々の要素の優劣ではない。絶妙なバランスの上で調和したシンプルさが、優雅で非の打ち所がない美しさとなっているのだ。
iPhone登場時に、初めてiOSを見たときと同じ感動と衝撃。「あの感じ」が、iOS 7にはある。
この美しさを実現するため、iOS 7ではあらゆる箇所が見直された。使用フォントやアイコンはもとより、メニューやポップアップ表示のデザイン、各種機能まで、すべてが別物になったと言っていいだろう。実際、デモンストレーションで用いられたのは、iPhone 5であるはずなのだが、iOS 7が入っていることで、これまで見たこともない魅力的な新機種に見えた。それほど「違う」のである。
機能面も刷新、Androidを大きく引き離す
むろん、iOS 7が優れているのは見た目だけではない。機能面でも大幅な強化が施されている。
まず、使い勝手の面で大きな変化となるのが、「Control Center」だろう。これは画面下から上に向けてスワイプすることでいつでも表示される統合型メニューであり、ネットワーク設定や画面の明るさ調整、音楽の再生/停止/スキップ、AirDropやAirPlayへの接続、懐中電灯、タイマー、計算機、カメラアプリなど、“すぐに操作したい機能”がダイレクトに使えるようになっている。
マルチタスク機能も強化された。これまでiOSではバッテリー消費の抑制する目的から、アプリのマルチタスク動作に一部制限をかけていたが、iOS 7ではそれを撤廃。タスク管理をより巧みに行うことで、バッテリー消費への悪影響を抑えながら、完全なマルチタスクを実現したという。さらにそれにあわせてタスク切り替え画面も変わり、従来よりも分かりやすく動作中のタスクを管理できるようになった。このマルチタスク機能の強化は、iPhoneはもちろんだが、iPadを利用するときにより効果を発揮しそうだ。
機能面でもう1つ見逃せないのが、「Air Drop」の搭載だろう。この機能は1対1でワイヤレス通信をし、簡単な操作で写真や動画などのコンテンツをやりとりするというもの。これまでMacOSにしか搭載されていなかったが、iOS 7でiPhone/iPadでも使えるようになった。
Safariやカメラなど基本機能がアップデート
基本機能の進化も、iOS 7で見逃せないポイントだ。
Webブラウザの「Safari」は、フルスクリーン利用を前提にしてUIデザインを一新。ブックマークやリーディングリストなどもタブで管理するようになったほか、閲覧中のページ一覧もより見やすくなった。iCloudとの連携機能も強化されており、前出のiCloud Keychainにももちろん対応している。
「カメラ」は、これまで露出やシャッタースピードなど“難しいことを考えなくてもきれいに撮れる”シンプルなUIはそのままに、新たに撮影写真を加工するフィルタ機能が実装された。また撮影した写真を管理する「写真」機能では、大量に撮影・保存した写真の中から目的のものが見つけやすいように、時系列や撮影場所で写真を自動分類する機能を実装。これはiPhone/iPadで撮った写真をPCで管理するのではなく、iPhone/iPad内でそのまま保存しているユーザーにとってうれしい進化だろう。
ほかにも、音声コンシェルジュ機能の「Siri」もアップデートされ、Siriの声として女性・男性の好きなものが選べるようになった。さらにSiriで扱える情報もアメリカでは増えて、より高度な受け答えもできるようになるようだ。
しかし、この音声コンシェルジュ機能に関していえば、日本ではAppleのSiriよりもNTTドコモの「しゃべってコンシェル」の方が音声認識率の高さや情報量の多さで上回っている。さらにしゃべってコンシェルは、好きなアニメのキャラクターやタレントの音声をコンテンツとして購入できるなど応用範囲が広がっている。米国におけるSiriが優れているのは確かなのだが、iOS 7のSiriが日本においてドコモのしゃべってコンシェルを超えられるかどうか。ここは商用版を試して判断してみたいところだ。
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