“LCC”で攻めるウィルコム/「Xperia Z Ultra」の新しい価値/Windows Phone 8の日本発売は?:石野純也のMobile Eye(6月24日~7月5日)(1/3 ページ)
6月末に開催されたMobile Asia Expoで大きな話題を集めていたいのが、ソニーモバイルの新機種「Xperia Z Ultra」だ。7月4日にはウィルコムの新機種と新料金プランも発表された。これら2つに加え、日本マイクロソフトの経営方針説明会も取り上げる。
中国・上海で開催された「Mobile Asia Expo 2013」に合わせてソニーモバイルが発表した「Xperia Z Ultra」は、国内外から大きな反響があった。投入国は未定だが、日本での発売も楽しみな製品だ。また、7月4日には会社更生手続が完了し、ソフトバンクの子会社となったウィルコムが夏モデルを発表している。ここでは、ソフトバンクグループ内での「LCC」としての位置づけも解説され、今後のウィルコムの方向性も明らかになった。また、7月2日に行われた日本マイクロソフトの経営方針説明会では、「デバイス」に注力する同社の方針が改めて解説された。6月24日から7月5日を対象にした今回の連載では、これらのニュースを取り上げていきたい。
ソフトバンクグループの“LCC”を目指す新生ウィルコム
「1つだけ着目したのは、本当にローコストで価値のあるもの。飛行機会社では『LCC』が利益率も高く、世界中で頑張っている。ローコストで価値あるサービスを提供していけば、そこに大きなニッチがあると信じていた」
新生ウィルコムの戦略は、同社代表取締役社長、宮内謙氏が会見で述べたこの発言に集約されている。それが、ソフトバンクグループの「LCC」としての役割だ。LCCとは、航空業界で一般的な用語で「ロー・コスト・キャリア」の略。使用料の安い空港を利用したり、機材(航空機)のやりくりを効率化したり、機内サービスを簡素化したりすることで、JALやANAといった既存キャリア(LCCと対比する形で「フルサービスキャリア」と呼ばれる)より運賃を大幅に下げた航空会社のことを指す。偶然にも通信事業者と航空会社は、どちらも一般的に“キャリア”と呼ばれているが、ウィルコムも同様にコストを下げ、安価な料金をユーザーに提供していく。
今回発表された端末も、こうした方針に則ったものだ。スマートフォンは2機種で、京セラ製の「DIGNO DUAL 2 WX10K」とシャープ製の「AQUOS PHONE es WX04SH」をラインアップした。DIGNO DUAL 2は、ウィルコムのPHSとソフトバンクの3Gに両対応した「DIGNO DUAL WX04K」の後継機にあたり、PHSに加えTD-LTEと100%互換のAXGPに対応しているのが最大の特徴。下りの通信速度は最大76Mbpsとなる。新たに防水・防塵に対応したほか、ディスプレイも4.7インチと大型になった。ディスプレイ全体がスピーカーの代わりになる「スマートソニックレシーバー」を搭載しており、UI(ユーザーインタフェース)も、KDDIやソフトバンクが発売する京セラ端末と共通点が多い。
対するシャープのAQUOS PHONE esは、ソフトバンクモバイルが販売する「AQUOS PHONE ss 205SH」をベースにしつつPHSに対応したモデル。カメラのスペックを490万画素に落とし、放射線センサーを省くなど、端末としてもローコストを目指していることがうかがえる。DIGNO DUAL 2とは異なりAXGPでの通信には対応していないが、代わりにPHSでの通信も行える。後述するように新たに発表された料金プランは1Gバイト以上で速度が制限される仕組みになっているが、「これを超えてしまった場合でも(PHS網で)それなりの速度でデータ通信が使える」(ウィルコム関係者)。
これらの端末は、確かにドコモ、au、ソフトバンクのフラッグシップモデルと比べると、機能ではかなわない。夏モデルで話題となったフルセグにも対応していなければ、カメラの画素数もミドルレンジからローエンドといったところだ。ただ、ちょっとネットを確認したり、スナップ写真を撮ってSNSにアップしたりといった用途には十分だ。当然、ウィルコムの強みである音声通話も利用できる。フルサービスキャリアであるソフトバンクよりも、ユーザー層を明確に絞った点からも、LCCを目指す意識が見え隠れする。航空業界で例えるなら、実績を積んで十分こなれた航空機を導入して、稼働率を上げるといったところだろう。確かに、航空業界でも新鋭機である「ボーイング787」は、JALやANAといったフルサービスキャリアがまず導入している。
さらに、通信料金でもフルサービスキャリアと比較した際の割安感を打ち出した。新たに導入するのが、月1Gバイトまで2980円で利用できる「ウィルコムプランLite」。キャンペーンを適用すると、最大6カ月間は1980円に割り引かれる。基本使用料の980円とWeb接続料315円を合わせた金額は4275円(キャンペーン適用で3275円)。1回10分、月500回までどのキャリアに電話しても通話料が無料になる「だれとでも定額」を加えても、5255円(キャンペーン適用で4255円)だ。
1Gバイトという制限はあるが、MVNOを除けばこうした料金設定は今のところない。まさに、LCCならではの料金設定といえるだろう。データ通信を月7Gバイトまで利用できる「ウィルコムプランD+」も発表されたが、こちらの料金は月額5985円(キャンペーン適用で5460円)。この金額はソフトバンクなどと変わらないもので、ウィルコムとしての主力は「ウィルコムプランLite」にあると見てよさそうだ。
合計4275円という料金はフィーチャーフォンの平均支払い額を下回るように設定された。宮内氏によると、フィーチャーフォンの平均支払い額が4863円。「大体が4800円。基本料と通話料を入れてこんなもの。支払いがガラケー(フィーチャーフォン)と変わらないスマートフォンを出そう」(同)という狙いがあったようだ。こうしたユーザーも料金さえ上がらなければスマートフォンに乗り換えたいという意向はあるという。
また、LTEの移行に伴い、フルサービスキャリアでは料金プランから無料通話が撤廃されてしまった。基本使用料の額に応じた、段階的な通話料も廃止されている。ドコモは30秒21円、au、ソフトバンクにも30秒21円か、980円のオプション料を追加して30秒10.5円にする選択肢しか用意されていない。だれとでも定額があるウィルコムなら、LTE対応スマートフォンにすると通話料が一気に高くなるユーザーもカバーしていけるはずだ。
一方で、音声利用が中心になる非スマートフォンの分野にも、話題性の高さを狙った商品を追加する。それが、「だれとでも定額パス WX01TJ」だ。だれとでも定額パスは厚さわずか5.5ミリのカード型PHS端末だが、マイクやスピーカーは一切備えていない。狙いは、スマートフォンの“音声通話ジャック”だ。この端末はスマートフォンとBluetoothで接続でき、発信や応答などの処理はすべてスマートフォン側で行う。
宮内氏は「例えばドコモさんのGALAXYを使っている人、そういったスマートフォンを使っている方がBluetoothでこれを経由すれば、だれとでも定額になる」と企画の意図を語る。料金も基本使用料を490円に抑えているため、従来の端末より気軽に2台目として持てそうだ。先に挙げた、LTEに移行して通話料が高くなってしまったユーザーにもフィットする。Bluetoothで接続する手間や、それに伴うバッテリーの消費は気になるところだが、料金の安さとのトレードオフと考えれば許容できる仕組みなのかもしれない。
コストを抑えたスマートフォン、音声特化型端末の提供に加え、ソフトバンク端末を安価で提供するのもウィルコムの新しい役割になりそうだ。今回の発表にはHuawei製の「STREAM 201HW」が含まれていたが、この端末の仕様はソフトバンク向けのものとまったく同。違いは料金プランで、先に挙げたウィルコムプランLiteが適用される。ウィルコムでは、以前、テスト的にソフトバンク版のiPhone 4Sを販売していた。こちらは「正直に言うと、大して売れなかった」(宮内氏)が、Android端末とPHSの音声端末をセットにした販売方式は一定の成功を収めていた。
「Android端末で、ソフトバンクでいまひとつ売れなかった商品も、ウィルコムのHONEY BEEとセットにしたら一瞬で売れてしまう。ケースバイケースで売れてしまう。ウィルコムには約800のウィルコムプラザがあるが、そこを活用して販売するシナジーを出すといったトライアルができる」(宮内氏)
STREAMは2012年の秋冬モデルで、9月という発売時期を考えるとヒットするかどうかは未知数だが、こうした取り組みはトライアルとして続けていくようだ。iPhoneについても「世界ではiPhone 4Sと5が半々ぐらいだが、日本では圧倒的に5。新しいバージョンが出ると、全部そっちに行ってしまう。本当はウィルコムで少し遅れたものが売れるといいと思っていた」(宮内氏)そうだが、当時はあまりプロモーションも積極的に行っていなかった。ソフトバンクの型落ちモデルが安く使えることがユーザーに認知されていけば、定番の販売施策として定着する可能性はあるかもしれない。
PHS対応のスマートフォン2機種に加え、ソフトバンクと仕様の同じ「STREAM」にも「ウィルコムプランLite」が適用される。こうしたラインアップを同社は「だれスマ」と名づけた。ただし、これは「だれにでもスマホ」の略で、PHS非対応のSTREAMでは「だれとでも定額」を利用できない点には注意が必要だ
このようにLCCという方向性に活路を見出した新生ウィルコム。通信業界にも、航空業界と同様の“二極化”が生まれるか、注目の動きと言えるだろう。ただし、同じソフトバンク傘下のイー・アクセスとの棲み分けが、まだ明確ではないように思える。イー・モバイルも端末代込みで3880円という料金が当たり、Huawei製の「STREAM X(GL07S)」が人気だ。宮内氏は「3つ(ソフトバンク、ウィルコム、イー・モバイル)がシナジーを出せるストラテジーをやっていきたい」と述べていたが、ウィルコムとの差別化をどのようにしていくのかが、今後の課題と言えそうだ。
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