音声通話SIMを提供するIIJの狙い/「MVNO2.0フォーラム」で見えたMVNOの現状と課題:石野純也のMobile Eye(3月3日~14日)(2/3 ページ)
3月7日はIIJが音声通話対応のSIMカードを発表したほか、6日には総務省とテレコムサービス協会MVNO委員会が「MVNO2.0フォーラム」を開催した。今回は、これらMVNOが提供するSIMサービスの現状と課題をまとめた。
「MVNOフォーラム2.0」で語られたMVNOの課題とは
ただし、IIJの料金プランにもまだ課題はある。1つは、音声通話の通話料が30秒20円(税別)でキャリアと横並びであるということだ。auやソフトバンクでは、通話料を半額にする「通話ワイド24」や「Wホワイト」が用意されているため、こと通話に関しては“格安”とは言えない。佐々木氏によると、これは「ドコモの標準的な卸プランがあるため」である。「So-netが無料通話をやっているように、標準プランにないところはMVNOの努力で仕組みを作れば提供が可能」(同)というが、極端にいえば、もともとそれほど大きくない利益を犠牲にするしか、他社と差別化ができないということになる。
また、格安SIMとして人気を博しているものの、端末価格を考慮に入れると、ある程度データを使うユーザーにとっては、そこまで安くならない可能性もある。例えば、音声通話込みで3Gバイトの「ファミリーシェアプラン」を契約すると、料金は3560円(税別)になる。ドコモで同じ3Gバイトの「Xiパケ・ホーダイ ライト」を選ぶと4700円(税別)。ここに基本使用料の743円(税別)と、ISPの料金であるspモードの接続料300円(税別)を足すと5743円だ。単純比較だとIIJの方が安いように見えるが、必ずしもそうではない。ドコモやau、ソフトバンクは、端末を買った際の割引が通信料に対してつく。これが2000円だとすると、料金は3743円。IIJのファミリーシェアプランはSIMカード3枚でデータ量を分け合えるというメリットはあるが、金額だけ見ると大差がない状況だ。
これで端末代が同じならまだ互角の勝負といえるが、店頭に目を向けると必ずしもそうではないことがすぐに分かる。例えば、iPhone 5sはMNPだと一括0円で買えて、なおかつキャッシュバックまでもらえることもある。そのうえで、通信料に対しての割引がつく。これに対して、MVNOのSIMカードを使うためにSIMフリーのiPhone 5sをApple Storeで買うと、16Gバイトでも7万1800円(税込)だ。トータルコストでは、格安SIMと呼ばれるMVNOよりもMNOの方が安いという逆転現象が起こってしまう。少なくとも、大手キャリアが一括0円や端末価格を大幅に上回るキャッシュバックを是正しない限りは、MVNOはニッチの域を出るのが難しくなる。
端末価格の問題点については、IIJだけでなく、MVNO共通の課題として認識されている。3月6日に開催された「MVNO2.0フォーラム」では、日本通信の代表取締役副社長 福田尚久氏が、Apple在籍時に教育用PCの価格を大幅に上げた際、故スティーブ・ジョブス氏から「原価を割った分はほかのお客様が支払っていることになる。ほかのお客様に請求する権利を我々は持っていない」と語られたエピソードを紹介しつつ、次のように疑問を呈している。
「MNPでこちらにきたら10万円というようなインセンティブをキャッシュで払われている。得られるであろう収益の中から原資として出せるものなのか。独占禁止法では原価割れをしてはいけない、ほかにも景表法などさまざまな規制がある。1人に対して10万円のキャッシュバックをして、それが経済合理性としてジャスティファイ(正当化)されているのか。そういったものに経済合理性があるなからいいが、多くの人はそうではないと思っている。今の規制の中で問題がないのか、今の規制がきっちと運用されているのか(は検証が必要)」
福田氏に続けて、IIJの常務執行役員 島上純一氏も「今だと端末とセットの方が得になる。有限な資源を持っているキャリアが、大幅に値引きをして端末を売るということができるのがおかしい。端末代がイーブンになっていないという不満はある」と述べている。
このように、高額なキャッシュバックはMVNOにとって大きな課題と認識されているようだ。ただ、目立って批判されがちだが、上で簡単に試算した結果からも分かるように、仮にキャッシュバックがなくなっても、キャリアが販売している端末の方がSIMフリーモデルより大幅に安く、なおかつ通信費に割引がつくと、MVNOよりMNOが価格面でも有利になることに変わりはない。MVNOを含めたサービス環境の多様化を期待するなら、ここに対する明確な方針が必要になってくるだろう。
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