音声通話SIMを提供するIIJの狙い/「MVNO2.0フォーラム」で見えたMVNOの現状と課題:石野純也のMobile Eye(3月3日〜14日)(1/3 ページ)
3月7日はIIJが音声通話対応のSIMカードを発表したほか、6日には総務省とテレコムサービス協会MVNO委員会が「MVNO2.0フォーラム」を開催した。今回は、これらMVNOが提供するSIMサービスの現状と課題をまとめた。
3月6日に総務省とテレコムサービス協会MVNO委員会が「MVNO2.0フォーラム」を開催したのと前後して、インターネットイニシアティブ(IIJ)が音声通話つきのSIMカードを発表するなど、3月3日から14日の2週間は、“格安SIM”として注目を集めるMVNOに関する話題が相次いだ2週間だった。IIJのほかにも、ASAHIネットやSo-net、hi-hoなどが、新プランの発表やプランの改定に踏み切っている。
そこで今回の連載では、IIJの新たなプランを紹介しつつ、その発表やMVNO2.0フォーラムから見えてきたMVNOの現状や、MVNOが抱える課題についてまとめていきたい。また、ほかのMVNOが発表したプランについても、適宜触れていく。
データ量の増加、音声通話対応SIMの発行とサービスを強化するIIJ
IIJは3月7日、同社の提供する個人向けサービス「IIJmio高速モバイル/Dサービス」のラインアップとして、音声通話対応のSIMカードを追加すると発表した。あわせて、現在提供中の「ミニマムスタートプラン」(税別900円)は500Mバイトから1Gバイトに、「ファミリーシェアプラン」(税別2560円)は2Gバイトから3Gバイトにと、4月1日からそれぞれ利用できる容量を増加させる。
音声通話はSIMカードの交換が必要となるが、既存のプランに1000円(税別)をプラスすることでつけらる仕組みで、通話料は30秒20円(税別)。無料通話はなく、国際ローミング時には音声通話のみ利用できる。このタイミングでIIJが音声通話対応のSIMカードを始める背景には、次のようなユーザーのニーズがある。
「お客様の使い方を見ていると、(SIMを)スマホに挿している方が多い。家族や友達との会話はLINEやFacebookで済んでしまい、Gmailをはじめとするフリーメールが利用拡大し、モバイルキャリアが提供するメールへの依存も少しずつ緩くなっている。一方で、サポートやTwitterには、『いつ電話をやるのか』とかなり言われてきた。必要なときに電話で話せるニーズは根強い」(サービス戦略部 サービス企画1課 青山直継氏)
もちろん、スマートフォンではアプリとしてIP電話サービスを利用し、データ通信のみのSIMカードでコストを抑えるという手もあることはあるが、「スマホで従来の080、090(あるいは070)を使いたいという漠然とした不安や需要がある。無料のIP電話は操作性だったり、使いたいときにつながらず、通話が途切れる、音声が聞こえにくかったりするという問題がある」(青山氏)。
通信の仕組みをひも解けば分かるが、アプリレイヤーのみのIP電話とは異なり、回線交換はそれ用に帯域がきちんと確保されている。無線である以上、完璧はないが、それでもユーザーが極端に多くなると速度が低下し、パケットの流れが止まってしまうデータ通信網より安定性が高い。青山氏の言葉を借りれば、「いつでもちゃんとつながり、一定の品質が保たれる」というのが回線交換式の音声通話の魅力だ。
また、音声通話を始めることで、MNPでIIJへのポートインも可能になる。音声通話がないデータのSIMカードはあくまで今までの電話番号を移せない2回線目以降。音声通話を始めることで、1回線目需要を見込めるようになるというわけだ。
IIJはアプリで制御し、必要なときだけ通信を高速化する「クーポン」という仕組みを採用しているが、これを500Mバイトから1Gバイトに増量する。単純比較すると、933円(税別)で1Gバイトのプランを始めたBIGLOBEよりも割安となる。これについて、青山氏は「市場において1000円を切る1Gバイトのプランが先行している。市場動向を見ていると、そこに魅力を感じ、評価されているということはマーケティングの上でも出ている」と追随を認めた。
1Gバイトで約1000円という価格が可能になった背景は、青山氏によると「帯域単価の下落、あるいはその見通しも含め、1Gバイトであっても(1000円前後で)ご提供できるバランスが取れるようになりつつある」ことにあるという。利用者やトラフィックが増えれば接続料も上がるため、単純な比較はできないが、実際、2007年度には10Mbpsあたり1441万4939円だったドコモの接続料は、2012年度に284万6478円まで値下がりしている。また、総務省は今後、接続料のさらなる値下げを行う方針を掲げているといい、これに伴い、日本通信は1月に総務大臣に求めていた裁定を取り下げている。
こうした事情が相まって、各社1Gバイトで1000円程度の価格設定に落ち着きつつあり、今のMVNO市場の“相場”になっている。3月7日には、同じくドコモ網でサービスを提供するhi-hoが月額933円(税別)の「ミニマムスタート」プランのデータ量を4月1日から500Mバイトが1Gバイトに上げると発表した。同様に、ASAHIネットは、「1ギガプラン」の価格を、4月1日から1858円(税別)から900円(税別)に値下げるする。
価格帯の相場が形成されつつある中、IIJは他のMVNOとどこで差別化していくのか。青山氏によると、「1000円未満が売れ筋で注目を集めてはいるが、1000円以下であれば1000円以下で料金体系と品質、使い勝手のバランスをいかに取っていけるか。IIJではサービス事業者、通信事業者としてこれに取り組んでいる」という。
先に挙げた、ユーザーが自分の判断でオン・オフを切り替えられるシステムもその1つ。また、IIJでは「低速通信はペナルティではない」(ネットワークサービス部 モバイルサービス課 担当課長 佐々木太志氏)と考えており、クーポンをオフにした場合でも、以下のような「バーストトラフィック」では高速に通信ができるような仕組みを取り入れている。
「IIJはクーポンオフでも(200Kbpsになっても)案外使えるとご評価いただいている。この帯域を遅くしても、長い間設備が占有されてしまうと、その効果が打ち消されてしまい、なんらコスト削減にならない。そのため、(帯域制限をかけない)バーストの転送をさせてあげて、呼を早く解放するようにしている」(佐々木氏)
MNOとは料金で、MVNOとは品質で勝負していくというのが、IIJの戦略といえるだろう。
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