米Qualcomm主催の「Snapdragon Summit 2026」が2026年も米ハワイ州マウイ島で9月22日(現地時間)から開催されている。同社の主力製品であるSnapdragonの最新情報や業界トレンドが語られる同イベントだが、2026年のメインテーマはずばり「AIエージェント」だ。
同社プレジデント兼CEOのCristiano Amon氏はイベント冒頭のあいさつで、“AIカメラ”から連なる一連のAIの進化の過程をSnapdragon Summitでフォローし続けた歴史を語りつつ、今日ではそれがスマートフォンの使い方を根本から変えるレベルにまで達したと述べた。
2025年時点ではAIによりユーザー体験がパーソナライズされ、スマートフォンは周囲のデバイスをも含めた高度なインテリジェンスによって統合されることが言及された。結果として、ユーザー体験はスマートフォン中心のモデルからAIエージェント中心のモデルへと移行しつつあり、スマートフォンはもはやその中心にはない、というのがその趣旨だった。
そして今回のテーマは、AIが明確に“Intent(意図)”を理解できるようになり、スマートフォンがAIスマートフォンへ進化しつつある中、今後スマートフォンはどうなっていくのかという部分だ。今日のスマートフォン文化は2007年に登場したiPhoneが先駆けといえるが、それから20年、そこで培われたアプリ中心の文化はやがてAIエージェントが新しいUIとなるユーザー体験の転換点にある。重要なのは、Snapdragon自身がこのトレンドの変革を受け、AIエージェント時代にふさわしいプラットフォームとして進化しつつある点だ。
現状でスマートフォン体験の多くは目の前のデバイスとの“Interaction(やりとり)”を通じて行われる。アプリの利用が典型だが、人はアプリを通じてさまざまな作業を行い、これはチャット型のAIにおいても大きくは変化しない。だがAIエージェント時代には、エージェント自身がユーザーの意図や状況を理解し、自ら推論や計画を行うことでその“意図”に沿って作業を完遂しようとする。
MCP(Model Context Protocol)というAIエージェント同士が互いに通信してやりとりを行うプロトコルがあるが、このAIエージェント時代のAIは自身単体で作業を完結せず、必要に応じて外部のサービスや別のAIエージェントを適宜呼び出すことで細かい作業も担い、最終的に意図に沿ってタスクを完了させる。複数動作するAIエージェントの仲介者は「Orchestrator(オーケストレータ:指揮者)」などと呼ばれるが、こうしてユーザーの代理人として自律実行で複数のタスクをこなす新しいスマートフォン体験がAIエージェントの時代では当たり前となる。
もう1つ重要なのが、「マルチモーダル」と「マルチデバイス」という考えだ。AIエージェント時代におけるマルチモーダルでは、テキストのようなデータのみならず、画像から音声、そしていずれはフィジカルAIにおけるフィードバックまで、あらゆるデータを収集して状況を把握し、推論、そして実行する。
マルチモーダルの過程で収集されるデータやユーザーとの対話インタフェースは必ずしもスマートフォンである必要はなく、別のスマートフォンやPCでもいいだろうし、グラスやウォッチ、車といった異なるデバイスでも構わない。中心にあるのはユーザーと対話するAIエージェントであり、さまざまなマルチデバイスを通じて“コンテキスト(文脈)”を共有し、互いが連携する仕組みとなる。
Amon氏が強調するのは、こうしたトレンドの中でもスマートフォンは依然健在であり、パーソナライズされた最も身近なデバイスとしてAIエージェント体験において重要な役割を果たし、Snapdragon自身がそれを後押しする存在だという点だ。
AIエージェント時代のマルチデバイスでは、異なるプラットフォーム上で互いが連携する必要がある。そのための共通基盤となるソフトウェアスタックを提供するModularを買収し、オープンソースとして提供することを発表したこのAIエージェント関連ではいくつか新技術やパートナーシップが発表されている。その1つは「HBC(High Bandwidth Compute)」で、詳細は2027年3月にスペインのバルセロナで開催されるMobile World Congress(MWC)で発表する予定だ。HBCはSnapdragonの“コプロセッサ”としてメモリとAI関連処理ユニットをより高速接続させる仕組みだという。
もともとデータセンター向けにメモリとアクセラレーターを直結して性能向上を図る仕組みとして設計されている。将来的にAIエージェントの世界が一般化した場合、オンデバイスでも1日あたり100万トークン規模の処理が実行されるようになると見込まれ、アクセス速度向上と(現在世界のAIデータセンターで課題となっている)電力消費問題の両方を解決するエッジ向けの技術となっている。
今回はスマートフォン向けとして発表しているが、実際にはノートPCからウェアラブルなど各種デバイス向けの提供を予定しており、LLMのような大容量パラメーターを持つAIワークロード実行で既に問題化しつつある「メモリ帯域と消費電力」の課題を解決する一助となることが期待される。
会場には、2025年に引き続き米Googleでプラットフォーム&デバイス部門担当SVPのRick Osterloh氏が登壇し、両社での協業について説明した。同氏によると、Googleのプラットフォーム内でのトークン消費量が前年比7倍に急増しているという。ユーザーによるGeminiの積極的な利用や企業におけるAI導入機運が高まっており、その利用スタイルも単なるチャットによる対話からAIエージェント的な自律的なタスク実行へと移行しつつあることに言及した。
このトレンドに合わせる形で、両社のパートナーシップの下でよりAIエージェント利用に最適化された「Gemini Intelligence」を推進し、OSレベルでこれを実行可能な環境を整備していくとした。典型的な例が、先日詳細が正式発表されたばかりの「Googlebook」で、同デバイスではAndroid OSを下地にChromebookのデスクトップ機能が統合され、さらにOSレベルでGeminiをサポートするなど、AIエージェント的なデバイス利用に最適化されている。
また、クラウド上での推論とオンデバイスでのローカル推論の両方を組み合わせたハイブリッドAIの重要性にも言及しており、この実現のためにハードウェアとソフトウェアがより密接に連携されている必要があるとも述べている。
もう1つは「エージェンティック・コマース(Agentic Commerce)」だ。「ただの商品検索であれ、AIが絡んだショッピングであれば全て該当する(Recommendation)」と拡大解釈されるケースも見られるが、本来は「AIエージェントが代理でショッピングを行う(Proxy)」ことを意味する。
Recommendationでは買い物候補を提示するだけにとどまり、これが従来の検索エンジンやチャットbotの活動範囲だったが、エージェンティック・コマースの世界では買い物行為そのものをAIエージェントに委譲(Delegate)するものであり、大きくトレンドがシフトする。Amon氏はこうした仕組みにおいて最も重要なものは「信頼(Trust)」だとするが、この実現のためにクレジットカードの国際ブランド大手であるMastercardと組み、Snapdragonのプラットフォーム上で信頼性の高い仕組みを実現していくと説明する。
仕組みを実現する上で2つのポイントがある。1つはAIエージェントが“コンテキスト”をきちんと理解してユーザーに適切な提案ができること、もう1つは前出のように信頼に足る安全な決済が行えることにある。
コンテキストについては、ユーザーの行動や過去の購買履歴などを把握し、商品選択の場面で価格優先なのか、あるいはブランドなど目的志向かなどを理解して適切な商品を提示する。例えば旅行商品の提案では、スケジュールや個人の好みを把握した上での提案が求められる。
安心安全の部分については、“Credential”と呼ばれる認証情報をデバイス上で安全に管理しつつ、Mastercardなど決済ネットワーク側と安全にやりとりできる仕組みを構築する。会場で紹介されていたデモンストレーションでは、XRグラスを通じてAIエージェントとやりとりしつつ、実際の決済場面ではPIN入力や生体情報を使った承認が必要で、この認証を通過した段階でCredentialを通じて決済が行われる。
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