7色LEDのつくりかた──スタンレー電気最近の携帯電話で,着信ランプが7色に光ったりするヤツ,ありますよね? ちょっと前までは1色とか2色しかなかったのに,ここ最近とってもカラフル。前回に引き続き,そんな「光」の謎についてのお話です。
さてそれでは前回の復習問題! LEDの光の色で,5年前までは作るのが難しかったのは何色でしょう? 分からない人は腕立て伏せ100回ね。(にっこり) ●●● LEDの作り方講座 その3(7色のヒミツ編)前回はLEDの仕組みと種類について勉強しましたが,今回はいよいよ発端の謎の7色LEDについてを教えてもらおうと思います。先生は前回に引き続き,スタンレー電気,技術企画課課責長の濱田直仁さんと経営企画課係長の會田利之さんです。 ……と,濱田さんが何やらサンプルのLEDが入っている箱をいじり始めました。 「7色に変わるLEDというのは,これですね,ほら」 と,にこにこしながら濱田さんがスイッチをパチパチっといれると,光の色がパッパッと変わります。これだー!これが色の変わるあのライトの中身なんですね?
どうぞ触ってみて下さい,と言われて私もやらせてもらいました。スイッチが3つ付いていて,それを入れたり切ったりの組み合わせで色が変わります。1つスイッチを入れると緑色,2つで黄色,3つ入れると白……あれ? なんか分かってきたぞ。 「そのスイッチが3つあるところがヒントです。それぞれ1つだけスイッチを入れると,赤・緑・青に光ります」 それはまさしく「光の三原色」ですね! 「そう,もう分かりましたね。この1個のLEDの中には,3色のLEDチップが入っているんです」 3色を組み合わせることによって,自由自在にどんな色でも作れるとのこと。色の割り合いは電圧で調節して,微妙な色合いまで出すことができます。 「2色のLEDチップを積んだものというのは,ちょっと前からあったんですが……で,だったらうちは3色だ!ということで開発しました」 携帯の液晶がモノクロだった頃,バックライトが緑とオレンジの2色に切り替えられるものがあったのを,皆さん覚えていますか? あれに使われていたのが,2色のLEDチップを積んだタイプのLEDだったのだそうです。そこでスタンレー電気では,さらに3色バージョンを開発し,1個のLEDをフルカラーに光らせることに成功したのだそうです。 ●●● LEDの作り方講座 その4(色を混ぜる工夫編)色がくるくる変わるのが面白くて,サンプルのLEDのスイッチをパチパチいじっていたのですが,そのうち,気づいたことが。……なんだか,色が完璧には混ざっていないかも……? 光の中心は1色なのですが,はしっこの方だと別々の色の光が,なんとなく分かってしまうんです。 「そうそう,その“混色”には苦労しているんですよ」 3つのLEDチップの並んでいる間隔は,約50ミクロンほど。後で調べたところ,人間の髪の太さが,およそ50〜100ミクロン。だから,実際に目で見ても3つのLEDチップが見えるはずもなくて,1個の点にしか見えません。そんな状態なのに,光が完全に混ざらないで,別々に光っているように見えてしまうなんて,不思議です。 「人間の目というのは,色のちょっとの差などを見分けるのは得意なんですよ。つまり色の識別に敏感なんです」 確かに,形を見分けたりするよりも,色の差のほうが簡単に分かりますよね。そんな厳密な人間の目にも自然に映るくらいきれいに色を混ぜるために,色々な工夫がされているとのこと。 「まずは,並べ方ですね。ただ1列に並べるより,チップをなるべく中心に集めるように配置を工夫して,それぞれのLEDチップ間の距離を縮める,とかね。(図参照)でも,これは技術的になかなか難しくてねー……1列に並べたりすることもあります」 そんな場合に特に重要になるのが,光を拡散させて混ぜ合わせる方法なのだとのこと。 「3つのLEDチップから,ただまっすぐに光が出ているだけでは,うまく混ざりませんよね。色がばらばらに見えちゃう。だから,LEDの周りに反射枠を置いたりして,光を拡散させてやるんです」 なるほどー,直接光を出すのではなくて,まず光を反射させて色を混ぜるわけですね。サンプルのLEDがよーく見るとなんとなく色が混ざっていないように見えてしまうのは,この拡散をしていない素の状態だからのようです。このLEDを携帯電話などの中に組み込む時には,配置の工夫や反射枠を効果的に使うことによって,綺麗に光の色が混ぜられるわけです。 ●●● LEDの作り方講座 その5(みんなの手元に届けるのだ編)それにしても,3つのチップの間隔が50ミクロン,って……もう想像できない世界ですよね。当然,産業用ロボットとかが作っているんでしょうけれど。 「いいえ,実は,人間がやるともっと間隔は狭くできるんですよ。顕微鏡を見ながら人間ががんばると,20ミクロンくらいまでいけます」 うわあー,お米に字を書く人みたいです。いや,それよりもずっとずっと小さい世界ですよね。まさに職人芸! 「でも,機械で量産するからには,50ミクロンがいまのところ製造能力の限界ですね」 混色を綺麗にするためには,チップ間の間隔が狭ければ狭いほどいいとのこと。 「けれど,私たちの仕事は“開発”するだけではなくて“量産”することが大事なんです。そうしないと,皆さんの手元に届く製品も,安くならないでしょう?」 どんなに素晴らしいものでも,高すぎて買えないものだったら仕方がないですものね。 「研究所の中では,現在市場に出ているものよりももっともっとすごいものっていっぱいあるんですけれども,商品として世に出るためには量産できるものでなくてはね。その関門をクリアして,はじめて商品化できます。……でもね,量産技術もどんどん向上しますから,もっときれいでもっとすごいものも,いずれ皆さんの生活の中に入ってくることになりますよ」 と,濱田さんは,変わらずにこやかにきゅっきゅっきゅー,とミクロンの世界をホワイトボードに書きながら,嬉しそうにそう言われました。 頂いた名刺には,小さなシールが張ってあって,そこに書かれていた言葉が「光に勝つ」。色々な「光」を開発して,量産しているスタンレーの心意気がひしひしと伝わってきました。これからも,どんどん勝ちまくって,ばんばんすごいものを作っていかれるのだろうな,と確信しつつ,スタンレーを後にした私なのでした。 これで私もLEDに関してはばっちりです! LED博士と呼んでくださいな,えっへん。 町中の電光掲示板や,車のハイマウントストップランプなど,そこかしこに光っているLEDを見ては,スタンレーでのお話に思いを馳せる今日この頃。皆さんも,ちょっと注意して身の回りの製品を見てみて下さい。 さて,ここで冒頭の問題の答えです。一番作るのが難しいのは青色でした! 実はまだ,青色LEDは赤色LEDなどより,高価なのだそうです。それと余談になりますが,赤く光るよりも,青く光る方が,わずかな違いですが,電力消費量が大きいとのこと。もしかして青色LEDは贅沢品?? そう聞くとますます青く光る携帯が欲しくなってしまう私なのでした。 さてさて,今回の「もばいるのつくりかた」はいかがでしたか? 次回もまた,違う技術の世界に飛び込んでいきます。ここでとりあげてほしいな,というような技術や製品があったら,ぜひぜひ編集部あてのメールでリクエストくださいね。 それでは,また! [絵本 智,ITmedia] 連載バックナンバー Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. モバイルショップ
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