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つくりかた
 [第6回]

携帯ストラップ編 トップランドその2

モノ作りの里,静岡県よりこんにちはー! ということで,前回に引き続き,トップランドで携帯電話のストラップの作り方を勉強中です。 今回は,お話の中に登場する謎の言葉,「工業系技術」の核心に迫ります。それでは,後半スタートなのです。いってきまーす!

【国内記事】 2001年6月13日更新

雑貨系技術と工業系技術

 今回お話を聞かせてもらっているトップランドさんは,もともと電気メーターなどの工業製品の下請け製造をされていたとのこと。それからスタートしたものの,いつしか希望は「モノ作り」の最初から最終形まで,つまり,企画案からお客さんの手元に届けるまでを一貫してやってみたい! ということに。そんな気持ちから,スキーキャリアや,携帯電話用のストラップを手がけられるようになったというお話を前回伺いました

 で,そこで出てきたのが「雑貨系技術」と「工業系技術」という言葉。トップランドさんは「工業系技術」でもって,雑貨を作ろうと試行錯誤されたそうなのですが……具体的には,どう違うのでしょう?

 「一言で言えば,私たちはロジックと精度で物を作ります。だから,最終的に何個必要かと考え,生産効率から,ドラえもんを8体型抜きできるような金型を作るんですね。作り方も精度から物の形を決めていきます。でもね,ストラップのような『雑貨』では普通はたった1つの『かわいい』型を作ってそれを回転させて作ります。それはそれで高度な技術なんですけれども,うちは作り方が違ったんですよね。もともとの考え方というか」

 というと……つまり,雑貨系の技術より工業系の技術のほうが高度,って意味なのかな?? と谷下さんに聞いたところ,谷下さんはちょっと目を見開いて強く否定されました。

 「いやいや,絶対そんなことはないです。考え方や作り方が違うだけで,技術自体は共に非常に高度ですよ」

 とはいえ,機械ものをロジックと数値で作ってきた技術はドラえもんを作るのにもしっかり活かされて,ぴしっと高い精度で作られています。おヒゲもメーターの表示板のように,ぴっぴっと綺麗に揃っています。谷下さんは,工業系技術で作ったことを,「なんであんなことまでしたのかと思うこともあります」などとも言いましたが,製品の出来栄えは,さすがのものなのでした。

 最初のドラえもんストラップでトップランドの「工業系技術」で量産する技術力の高さが評価され,今度はサンリオやディズニーなどのキャラクターのものも作るようになっていったとのこと。

 これらの版権許諾に非常に厳しいキャラクターを作るには,ちゃんとそのキャラクターに見えるという基準を満たしていなければなりません。基準判断の厳しい各企業へ企画を持ち込み,商品化に成功した裏には,工業製品作りで培った高度な技術がありました。これらのお話を通して谷下さんは,自分達の技術に対する自信と誇りを,本当に嬉しそうに語ってくれました。

すべて日本で作っているわけ

 そんなトップランドの「工業系技術」の特徴はロジックと精度だということは具体例で教えてもらいましたが,もう1つ「全部日本で作っている」というお話。これは,もしかして品質などにも関係しているのかな? と聞いたところ,これも谷下さんはきっぱりと否定されました。

 「いやいや,昔はそういう印象もあったかもしれませんが,きちんと作れば外国で作っても同じです。日本で作っているのはね,『作る』っていうこんなに面白いことを手近なところでやりたいから」

 谷下さんは,とことんモノ作りが大好きなおじさまです。

 例えば,トップランドのお仕事を内職で請け負われている方たちにも,モノ作りの最終形を見てもらえるようにしたいのだ,と言います。従来,内職の皆さんに出していた仕事は流れ作業の一部を切り出して渡していたので,自分が何を作っているのか分からなかったという声もあったそうです。 現在の内職作業は,いろんな部品がばらばらで手元に来た状態から,組み上げから最終的な商品としての袋詰めまでをするとのこと。これが,谷下さんの言う「商品を作っている」ことを内職さんも感じてほしいということのようです。

 トップランドでは他の製品もほとんど全て国内で内職に出していますが,海外で作っている他社製品よりも高機能・低価格を目指しているとのこと。……あの,ちょっとでいいのでその秘密を1つだけでもダメですか?

 「そうですねえ……1つには,いま横にいるデザインの牧野を始めとした設計陣の能力があります。うちは金型も自分のところで設計するし,『型屋さん』とのやりとりも密です。内職に出すっていっても,つまり,内職の皆さんが手間なく組めるように部品の組み合わせを設計して部品を作ることが必ず必要になります。これは,この牧野なんかほんとに頭ひねってますよ。いつもね」

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 コストダウンの秘訣の1つは設計思想! とのことで,牧野さんからその工夫のあれこれを聞かせてもらいました。でもね,ごめんなさい,ここには書けないみたいです。もしかしたら,皆さんが使っているストラップや小物をいろいろひねくりまわしてもらえると謎が解けるかもしれません。本当に眼からウロコのお話ばかりでした。

どこまでいける? ここまでいける!

 お得意の「工業系技術」をもって,精度高くいろいろ作っちゃうトップランド。たくさん作ったなかにはやっぱり「ボツ」になったものも。でも,そのボツになったものもまた面白かったんです。

 「これは駄目だったんですよ。小さく作りすぎちゃってねえ」

 と,谷下さんが出してきたのはキティちゃんのマスコットなのですが……強烈に小さいです。でも,ちゃんとキティちゃんって分かります。

 「ストラップにはちっちゃく作りすぎたんでボツにしたんですけど,ああ,そういえばって思いついて,こう流用しました」

 で,谷下さんが取り出したのは,今度はストラップじゃなくて「光るアンテナ」でした。ストラップとしては小さすぎてイマイチだったようですが,アンテナの先につけるにはぴったりです。それにしても,ボツになる理由が「小さく作りすぎた」というのもすごいです。

 そんなふうに感心,びっくりしていると,さらに,「でね,今はこんなのやってるんですよ」と取り出されたのは小さなビニールの袋。その中にちっちゃな茶色のカタマリがあって,よーく見ると……あ,これベティちゃんです! すごく小さいのに,なんだか艶かしいです。太もものところとか。それにしてもちいさーい!

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 これを,さらに量産するところもトップランドの工業系技術のワザの見せどころなのだそうです。この小さなベティちゃんは,原型師さんが手で細かく細かく作り上げたものなのだそうですが,牧野さん曰く 「息を止めて,強烈に集中して作業してますね。そういうことができる人がいるんです」 とのこと。まさに職人芸の世界です。モノを作る人って,本当にすごいなあ……。

おしまいに,谷下さんのお話から

 谷下さんと牧野さん,そして会社の皆さん全体からあふれるモノ作りスピリットとプライドに圧倒されっぱなしの数時間でしたが,ちょっと気になることも言っていました。

 「下請けから仕事を変えた時の理由の1つは,どんどん世の中が『コスト』と『時間』だけになっていって,仕事の発注元もいっしょにモノ作りをしている感覚がなくなってきてしまったから。これは今の世の中全体がそうだと思う。若い人や子供なんかも,自分で何かを作る感覚が薄いし,物は作るものじゃなくて既製品として買うものだ,って思ってる。これはどういう仕組みなんだろう,というような,モノに対する興味が少なくなってきているように思うんです。『作りたい』と思っている人がいても,世の中の風潮がそうだからね……」

 そして谷下さんは最後にこう付け加え,今回のお話は締めくくられました。

 「うちにはモノ作りの全部があると思っています。本来,モノを作るっていうのは本当に面白いことなんです。一緒にやりたい人がいたらぜひ来てほしいです」

 さてさて。二週間にわたってお送りしたトップランドのストラップのお話はいかがでしたか? 次週もまた,違う「モノ」や「技術」の中に飛び込んでいきます。それでは,またー!

[絵本 智,ITmedia]

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