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つくりかた
 [第18回]

10円玉と100円玉をばらまいて作りました!〜スーパーモバイル液晶〜

反射型に透過型,最近は半透過型,なんて言葉も聞きますよね。今回は液晶と光の関係についてのお話です。シャープの誇る反射型LCD「スーパーモバイル液晶」開発秘話も聞いてきました!

【国内記事】 2001年9月12日更新

 こんにちはー,もばいるのつくりかた第18回です。普段,何気なく見ている液晶の画面ですが,その仕組みはとても奥の深〜いものなのです。ということで,今回も引き続きシャープの天理工場にてTFT液晶事業本部 事業戦略推進室 副参事の大下進次さんに液晶について教えて頂きます。

 前回まで,液晶パネルの表示の仕組みについて勉強してきましたが,今回はさらにそれを「どうやって明るく見せるか」というお話。光を通したり遮ったりして表示のオン・オフを行っているとのことでしたが,その「光」はどんなふうに制御されているのでしょう?

反射型とか透過型とかって?

 「こんな言葉って聞いたことありますか?『反射型』とか『透過型』とか……」

 あ,知ってます! 携帯電話の機種を選ぶ時に,気になったりするんですよね。画面の見やすさなどに結構影響してきますし。

 えーと確か,バックライトがついていると見えるのが「透過型」で,日光の下などでも見えるのが「反射型」ですよね。バックライトで表示されている「透過型」はお日様の下では画面が真っ黒になっちゃったり……。

 「そうそう,それだけ知っていればこれからのお話も分かりやすいかもしれません。ところで,先日ミュージアムでお見せした,世界で初めて液晶表示を実用化した電卓を覚えていますか?」

 はい,あの黒地に白く数字が見える表示の液晶ですよね。

 「あれは『反射型』液晶ディスプレイなんです。でも,現在携帯電話などに使われているものよりずっと単純で,自然光をそのまま光源として使う仕組みでした。あの頃は,まだ表示する内容が単純だったのでそれでよかったのですが,その後文字や画像,動画まで表示するようになり,さらにカラー化や大型化,高精細化していくにつれて,反射型では十分な明るさで表示ができなくなってきました。そこで,液晶ディスプレイの裏側にライトを埋め込んで画像を明るく表示する仕組みを作ったんです。それが『透過型』液晶ディスプレイです」

 なるほど,裏から光を当てて明るい画像を表示させたわけですね。

 でも,バックライトってすごく電気を食いそうな気もするんですが……。特に,携帯電話などではそういう液晶を使っていると,待受け時間が短くなってしまいそう。

 「そうですね,それでもブラウン管に比べたら約3分の1の消費電力ですが,反射型と比べたらずっと電力を使ってしまいます。あと,高精細な液晶表示をPDAやノートPC,携帯電話などで屋外に持ち出すことが増えるに従って,バックライトの光が太陽光に負けてしまって画面が見えなくなるという不便も出てきました」

 明るい表示のためにはバックライトが必要で……でもそうすると電力消費が増えてしまったり,また屋外では見えにくくなったり。うーん,あちらを立てればこちらが立たず,ですねえ。

 「そこが難しいところでした。やはり,両方の長所を併せ持った液晶を作りたい。そこで,一度バックライトによって解決した画面の明るさの問題を,再び反射型に立ち返って,いかに外界の光を効率よく取り込み表示させるかという研究が始まりました」

10円玉と100円玉をばらまいて……

 うーん,でもそれって,透過型でバックライトを置いていた所に鏡を敷いたら外界の光を取り込めるんじゃないのかな?

 「そうですね,単純に『反射させる』という意味では,鏡を置くのも悪くありません。でも,確かに鏡面が一番反射率が高そうに思うでしょうけれど,それは1点の光を反射させる場合だけのことなんです。私たちが日常暮らしている中では,多くの光源から光を受けていますよね。そうすると,例えば紙の表面がザラついているように,反射板に適度の光を散乱させるデコボコがあった方が表示には適しているんです」

 なるほど,確かに単純な鏡では平面全体が明るくは見えないですよね。光が当たった所だけ光ってしまいます。

 「ということで,この反射板のデコボコをいかに作り込むかが,反射型カラー液晶ディスプレイ開発のミソでした。ですが,これがなかなか難しくて……。光をまんべんなく拡散させればいいのかというと,そうでもないんです。デコボコに規則性が出てしまうと,ほら,CD盤の表面には虹色の筋ができるでしょう? あんなふうになってしまうんです。では,不規則なデコボコの配列を作ればいいんだ,とコンピュータの乱数表を使ってパターンをいくつも作ったのですが,どうしてもなんらかの規則性ができてしまって,うまくいかないんですよね」

 完全なでたらめって,難しいんですね。でもじゃあ,一体どうやって「適度に不規則なデコボコ」を作ったんですか?

 「なので結局,研究者たちはバケツに10円玉と100円玉をいれて,平たい箱の中にザラザラ〜っとそれをまいたんです。そうやって偶然に出来たパターンを元にしてデコボコを作り,やっと理想に近い光の散乱を起こす反射板を作ることができました」

 10円玉と100円玉って……そんなローテクな。でも,コンピュータが駄目なら,というその発想の転換が成功の鍵だったんですね!

 こうやってできた反射型カラー液晶を,シャープでは「スーパーモバイル液晶」と呼んでいるとのこと。これはお話してもらえるレベルでは,最新の液晶ディスプレイの技術なのだそうです。

液晶サンドイッチのレシピ紹介

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 では,上の図を見ながら「透過型」と「反射型」の構造の違いをおさらいしましょう。裏面にバックライトを置くのが「透過型」,間に反射板を挟むのが「反射型」ですね。

 ちなみに,スーパーモバイル液晶以前の反射型カラー液晶では,画面を少し斜めから見ると画像が二重映りする欠点があったのだそうです。それは,偏向フィルタと配光膜の間には薄いガラスの板があるのですが,これの厚み(約1ミリ)が問題だったとのこと。たかが1ミリ,されど1ミリ。

Photo

 従来の反射型カラー液晶では,上の図のように反射板が液晶パネルの外側にありました。そのため,ガラスの厚みが光を屈折させ、光が入ってきた画素と違う別の画素から出てしまいます。これが画像がブレて見えてしまう原因でした。

 この問題を解決するために,反射板を間にサンドイッチした構造にしたのが,スーパーモバイル液晶の特長の1つ。下図のように反射板を間にはさめば……ほら、ちゃんと同じ画素内に反射しました!

Photo

 また,最近耳にする「半透過型」についても聞いてみたのですが,こちらに関してはまだ詳しいことはヒミツとのことでした。むむ,企業秘密ってやつですねー?

 「まあ簡単に言うと,バックライトと『半分透けている』反射板を搭載することで,暗い所でも明るい所でも,どちらでも綺麗に見える液晶を開発しているんです」

 半透過型液晶ディスプレイはもう既に一部実用化しているとのこと。うーむ,デコボコの反射板の開発から,さらに「透けた」反射板へ……。まだまだ進化は続くようです。

さて,次回は工場見学と液晶の未来について!

 「さてさて。液晶についてはこれでだいぶ理解して頂けたかと思いますので,そろそろ工場見学に出発しましょうか?」

 待ってました!いよいよ秘密基地に案内して頂けるんですね?

 「はいはい。ですがもちろん撮影は禁止ですよ(にっこり)」

 わ,分かりました,カメラ置いて行きますー。ということで,今回はここまで。それでは次回の工場見学をお楽しみに!

[絵本 智,ITmedia]

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