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つくりかた
 [第26回]

秋葉原の新名所!? 「ブロードバンドカレー」の謎を仕掛け人に聞く!

秋葉原に世界初ブロードバンドカレーが登場! 最初これを聞いた時は「ブロードバンドカレー? ……味の帯域が広いのかしら??」などと思った私。大ハズレでした。今回はその仕掛け人,日本IBMの竹村さんと中林さんにお話を聞きます。

【国内記事】 2001年11月15日更新

 こんにちはー「もばいるのつくりかた」第26回です!

 今回のお話は,某メーカーの方からの,ある1通のメールから始まりました。

 「皆さんも,秋葉原にてぜひ『ブロードバンドカレー』をご賞味ください! 最新のワイヤレスブロードバンド環境が皆さんをお待ちしています。場所は『コーヒー&カレー 東洋』。Powered by e-ACCESS & IBMの文字が目印です!」

世界初ブロードバンドカレー??

 なんのことやら? と最初は思ったものの,面白そうなニオイを感じた私は,そのメールの方に電話で詳しいことを聞いてみました。すると,ブロードバンドカレーの正体は以下のようなものとのこと。

  1. 秋葉原の「東洋」という喫茶店に,イーアクセスのADSLをベースにワイヤレスネットワーク環境を敷設した。
  2. 「東洋」はアキバ系業界人ご用達の喫茶店。そこに1.5MのADSLをワイヤレスで自由に使える環境を入れたことは今後のネットワーク時代への大いなる実験である。
  3. なお,同店舗ではネットワークの使用代金は特に取らない。なぜならこのサービスは有線放送と同じようなもの。ワイヤレス環境を持っている皆さんに「何気なく」使ってほしい。

 ちなみに,このワイヤレス環境は,最近流行のIEEE802.11bでのワイヤレスLANとのこと。だから自宅や職場で使うためにワイヤレスLANカードをパソコンに使用している人は,設定を合わせればすぐに使えるのだそうです。

 モバイルはやっぱり持ち歩いてこそ,ですよね。でも,出先でメールを読んだりちょっと調べものをしたり,という時に困るのが通信の方法。今回の「東洋」のように,ワイヤレスLANを店内に引いている店が増えれば,いちいち携帯電話につないだりせずに済み,とても便利ですよね。

 ということで,今回はウワサのワイヤレスブロードバンド搭載の喫茶店「東洋」にて,その「仕掛け人」のお2人にインタビューです。名づけて「ワイヤレスモバイル時代のつくりかた」!

DOS/V勃興期から始まる「東洋」との付き合い

 さて,ということでここは世界の電気街,秋葉原。その大通りの真ん中あたりに「コーヒー&カレー 東洋」はあります。

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ここがウワサのワイヤレスブロードバンドの喫茶店「東洋」への入り口。T-ZONEミナミのほど近く,ソフマップのMIDI関連のお店の地下1階

 ここで今日お話をお伺いするのは日本アイ・ビー・エム PC製品事業部の竹村譲さんとパーソナルシステム事業部 マーケティング マネージャーの中林千晴さんです。実は,私にとっては学生時代からお世話になっている方であり,ちょっと緊張しちゃう相手でもあります。こ,こんにちはー,ご無沙汰しています!

 「おー,お久しぶりです。どう,ここでのネットワーク,快適でしょ? もう抜群でしょ?」とご機嫌な竹村さん。

 私はAirMacのワイヤレスカードを入れたiBookを持参したのですが,試してみてびっくり。無線LANの設定を「ANY」モードに切り換えるだけで,簡単につながってしまいました。また,大きな画像でもさくさく表示され,自宅(同じイーアクセスのADSL1.5M)よりも速い気さえします。計測サイトでデータの転送速度を実測したところ,下りで1M程度出ていました。うーん,かなり快適な環境です。感動。

 ではではさっそくですが,どうしてまたこちらの「東洋」で,こういったサービスを“Powered by IBM”で始められたのでしょう?

 「あ,それは僕のほうからがいいかな?」と,今度は中林さん。

 「IBMが今のように一般向けパソコンを扱い始めた頃,もう何年も前のことになるけれども,僕はその頃秋葉原で市場調査と販売の陣頭指揮をしていたんです。その頃から「東洋」の常連でした。同時にこのお店は,場所柄もあってパソコン業界のお客さんも多いので,店内でパソコンを開いている人もいたり。でも,東洋は地下にあるので,携帯やPHS で通信するのは難しかったんですよね。そこで,ワイヤレスでADSLを皆が使えるようになれば便利だな,と店長さんに相談したところ,やってみましょうということになりました」

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日本アイ・ビー・エムの竹村さん(左)と中林さん(右)。業界の立役者が次に目論むのはワイヤレスネットワーク時代の本格到来のよう……

 既に,ほかにもJALの「さくらラウンジ」や,新宿の京王プラザホテルのロビーなどにも同じような「Powered by IBM」のワイヤレスネットワークが引かれているとのこと。空港,ホテル,と来てそして次に注目したのが「東洋」だった理由を聞いたところ,こんな返事が。

 「もちろん,僕らが使いたいっていうのもあったんだけど(笑),何気なくね,カジュアルに使ってほしいという意味もある。空港やホテルのロビーで使えるのも便利だけれど,ちょっと畏まってしまうし。普段よく行く喫茶店でさりげなく,っていうのがいいよね。あと,『世界初!ブロードバンドカレー!』って言えるじゃない?」(竹村さん)

 うーん,半分冗談も交えながらでしょうけれども,その視線は近未来のネットワーク環境を見据えているようです。だって,今私の手元では,こんなに簡単に普通にネットワークが使えています。

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お店にとってワイヤレスネットワークは,有線放送と同じ

 ところで,「東洋」でのワイヤレスネットワークってどんな環境で動いているのでしょう? やっぱり難しいシステムが使われているのかなあ。

 「いや,ここに限らずだけれども,ワイヤレス環境を店舗に置くことができるのは,ほぼメンテナンスフリーな機材をさらに簡単な構成で置くことができるようになったからなんです。イーアクセスの標準のルータ内蔵ADSLモデムと,ワイヤレスのベースユニットでおしまい。あとは何にもないし,仮に停電が起こっても電気が入れば自動的に復旧しちゃう」(中林さん)

 「うん,それに『東洋』のご主人は喫茶店のオーナーであってメンテナンス要員じゃない。たった一つのレクチャーしかしてないよ。『もしも,調子がおかしくなったら……ゼムクリップを伸ばして,ピン先でリセット穴を押してください』って。それだけで,普通に運営できてる。ゼムクリップ,これが重要(笑)」(竹村さん)

 え? じゃぁ,パソコンもなんにも使ってないんですか?……確かに,お店の中を見回してもレジカウンターのところに置いてあるADSLモデムとワイヤレスのベースステーション以外,なんにも「らしい」ものはありません。もちろん,ワイヤレスだから工事もなにもしてないそうです。

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これが「東洋」の全ネットワーク環境。なお,店舗内でのサービスとしての提供なので,ESS-IDの設定は特にありませんが,設定等についてのお店側からのサポートはないのでご注意!

 「僕らはね,思うんだ。これからお店や『場所』にとってのワイヤレスネットワーク環境は,いわば店内に流れている有線放送と同じレベルでのサービスになると考えている。運用コストも手間も大してかからない割にみんなが便利に使える,ということもあるけれど,『音楽』というエンタテイメントを流し続けるという意味と,データを流すネットワークを維持するというのは,時代の要請としては何も変わらない。特に『ワイヤレス』というのは,さらにそれを何気なく使っていくためのインフラだから,どこにでもあって,分け隔てなく使えることが大事だと思ってる」(竹村さん)

 なるほど……。ここ「東洋」では,最初にも書いたように,ネットワークの使用料金は特に取っていないそうです。あくまで,ここはカレーとコーヒーのおいしい喫茶店。手軽で安価な,でも高度な機器とネットワークに支えられて,お客様へのサービスとしてワイヤレス環境を提供しているのです。

ThinkPadにミカンを乗せてこたつに……

 「僕はね,ワイヤレス環境って,これまで出たものはだいたい個人でも買ってるんだ。バッテリーが長時間持つようになってきたノートパソコンは,もうネットワークさえワイヤレスになればもう完全なワイヤレス状態になれる。かえって古い言葉になるけれど,ワイヤレスと言うより『コードレス』のイメージだね。端末に何も線がついていない状態。

 このThinkPad(目の前のワイヤレス機能内蔵内臓のThinkPad s30)は,一番大きなバッテリーをつければ,出張して,出先で仕事して,帰って,まだ使える。この状態になってくると『自宅でも職場でも出先でもワイヤレスネットワーク』にしたくなるでしょう? 特にね,カードを挿す作業をしてから通信しているうちはまだ思わなかったけれども,ワイヤレス機能を内蔵した時に,明らかに『気持ちが変わる』んだよね。PHSのダイヤルアップなんかとは全然『普通』さがちがう」(竹村さん)

 なんでも,竹村さんのおうちのワンちゃんは「あいつ,ケーブルかじっちゃうんだよ」(竹村さん)とのこと。そんな理由からも,自宅内のワイヤレス環境推進はとても重要だったのだそうですが,それによって別の風景も生まれたそうです。

 「例えばね,ほら,寒くなってくると自分の部屋からみんなのコタツのところに行きたくなるじゃない? 10時間持つバッテリーと内蔵ワイヤレス機能があれば,『閉じたThinkPadの上にミカンを2つのせて,いそいそとコタツに向かう』なんてことが普通にできちゃうんだよね。うんうん」(竹村さん)

 あ,なんかいいですねー。私も広い家に引っ越したら(というか,今のワンルームでは意味がないので)そういう暮らしがしたいな。あれをつないで,これを外して,なんてやることもなく,ひょいっと移動して何気なく使える。そんな風景が竹村さんの憧れだったのでした。

 うーん,やっぱりこれからはワイヤレスだな。あ,でも,最近Buletooth規格という無線技術も出てきていますよね。auの携帯にもすでに入ったりしているし……ここで話しているワイヤレスLANというのはIEEE802.11b規格のものですよね。これって競合するのかな?

 「あ,いや,それはないと思うよ。BluetoothはBluetoothで大事。あれは技術的な内容を見ても,自分の身の回り10メートル以内くらいのLANを組む規格なので,例えば僕のノートPCと,バックの中のケータイと,腕時計が連携する,というような際に使うようなものだからね。

 小さなデバイスに組み込めるように省電力が意識されている分,出力は低い。速度はそこそこ出るし,技術的に拡張できないわけではないだろうけれども,もともとの考え方が違うし,またそちらでの用途は確実にある。つまり,家の中や出先のワイヤレスベースステーションとコミュニケートして,さらにその先のインターネットに飛び出ていくときの規格とはちょっとちがうんだ。だから,可能性としては802.11bのようなワイヤレスLAN規格とBluetooth規格が同時に搭載されているパソコンというのもありえるよね」(竹村さん)

 ふむふむ,「適材適所」なんですね。さらに,竹村さんが言うには,その使い分けなども,ユーザー自身はいちいち意識しなくても,ごく自然に使えるようになるべきだとのこと。誰でももっともっと簡単に,普通に,いろんなことができるようになる未来。いいなぁ,そんな時代,はやく実現させてくださいよー。

 ……なんて話している間にも,お店の中はノートパソコンを使っているお客さんがちらほら見られます。皆さん,ワイヤレスでネットワークを使っているのかしら?

 目に見えないけれどつながっている,ってなんだか不思議な感じ。

 ところで,簡単な機材と月額数千円の維持費でお店にこんなに便利なサービスが付加されるのだったら,これからもどんどん広がっていくのでは? と聞いたところ……竹村さんも中林さんも,にやっと笑って,顔を見合せ,それから,

 「うーん,それはねぇ,楽しみにしていてよ。次の『ウルトラC』を考えているから。みんなが,ああ,ここはそういうのが欲しかったんだ! ってところになるからね」(竹村さん)

 「機材がほぼメンテナンスフリーだし,ワイヤレスなので工事も必要ない。維持費も少ない。それに,ワイヤレス機能内蔵のノートパソコンもこれからIBMはどんどん出していくので,その端末に合わせて『場所』も自然にどんどん広がっていくと思いますよ」(中林さん)

 うーん,結局その「ウルトラC」がどこであるかは「まだナイショ」とのことで教えてもらえませんでした(残念!)。でも,「東洋」の店長さんに聞いたところ,秋葉原内ではすでに同じようなサービスを検討しているお店って多いんですって。これからは,自宅でも出先でもワイヤレス! これが新しい時代のモバイラーの姿かもしれません。

 それにしても,お話ししていてひしひしと感じたのですが……。お2人とも,とてもパワフルです。このパワフルさがいち早くワイヤレス環境を内蔵したThinkPadのエネルギーなのかもしれません。

 ということで今回は,今のところは「ちょっと変わった」,でも,きっともうすぐそれも普通になってしまう(かもしれない?)「場所」と「サービス」に関するお話でした。いかがでしたか?

 この取材の後思うようになったのは,私が普段入り浸っている近所のあの喫茶店やあのファミレスにワイヤレス環境が入らないかなー,ということ。ダイヤルアップも場所を選ばなくて便利だけど,ワイヤレスLANのサービスがあったらさらにいいなぁ,なんて。……っと,そんなことを思いつつ,次回はどこに行こうかな,と思案中。それでは,また来週〜!「もばいるのつくりかた」でした!

[絵本 智,ITmedia]

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