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「世界でもこんな企業はない」「全くの約束違反」――NTTの規制撤廃に田中氏と孫氏が反対

「情報通信審議会 2020-ICT基盤政策特別部会 基本政策委員会(第4回)」にて、NTT、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのヒアリングを実施。NTTの規制撤廃が論点となり、KDDIの田中社長とソフトバンクの孫社長が“共闘”する形となった。

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 総務省が4月15日、「情報通信審議会 2020-ICT基盤政策特別部会 基本政策委員会(第4回)」を開催し、NTT、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク4社のヒアリングを実施した。この委員会の目的は、2020年代に向けた情報通信政策のあり方を議論することで、4月8日から各事業者のヒアリングが行われている。これに関連し、4月2日にKDDI、ソフトバンクグループ3社、イー・アクセスなど65事業者・団体が、NTTグループの規制見直しに反対する要望書を総務省に提出したことは記憶に新しい。

 KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏と、ソフトバンク代表取締役社長の孫正義氏が参加した15日のヒアリングでは、NTTグループの規制撤廃が主な論点になった。

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傍聴席が満席となるほど、会場には多くの傍聴者が集まった

2020年に向けて、固定とモバイルの両方が重要になる

 田中氏は、2020年代にICT(情報通信技術)が目指すべき姿として、「超高速・低廉・強じんな通信ネットワーク」と「創造的なICT利活用」を挙げる。超高速のネットワークは、4G、5Gへと進化していく中で確実に実現し、低廉なネットワークは、設備競争でコストダウンする。そして強じんなネットワークは、バッテリーの24時間化は進んできているが、基地局とセンター設備をつなぐ回線(光ファイバー)の冗長化も必要で、これにはまだ議論の余地がある――。そう田中氏は考える。

 4G・5G時代のモバイルネットワークは、1つの基地局でカバーするユーザー数が少なくなって基地局はWi-Fiルーターのように小さくなるが、基地局につなぐ回線が増えることで、コストが増大すると田中氏は予測する。KDDIの調べによると、2014年3月における、auのスマートフォン1台あたりの毎月の通信量(LTEと3G)は約2.7Gバイトで、2013年4月(1.9Gバイト)よりも42%伸びているという。Wi-Fiへのオフロードも進んでおり、Wi-Fi通信込みだと毎月約6.2Gバイトに至る(2013年4月は3.8Gバイト)という。

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直近のauスマートフォンの平均データ通信量

 データ通信量は「これからの10年間で約1000倍になる」(孫氏)とも言われており、トラフィック対策は急務だ。そのためには光回線のコストダウンが求められるが、NTTが独占することで競争が起きず、コストダウンにつながらなくなることを田中氏は危惧する。「(基地局の)料金は、バックホールの光ファイバのコストで支配されてしまう世界が来る。バックホールはNTTに頼るだけでなく、(複数のキャリアが回線を持つ)“キャリアダイバーシティ”を作っていかないといけない」と訴える。これには、災害時に一方の回線が切れても、別の回線でカバーできる強じんなネットワークを構築できる、との考えも含まれる。

 今後のモバイルネットワークは固定回線も重要、という考えはソフトバンクの孫氏も同様で、「モバイルだけで十分という極論をする人がいるけど、完全な間違いだと思う。無線による通信と光ファイバーによる通信が両方重なって、初めてICTインフラが出来上がる」と話す。ソフトバンク自体は光回線を提供していないため、KDDIとはやや立ち位置が異なるが、光回線は有線やWi-Fi(屋内と外出先)などの固定網で活躍し、モバイルと固定は相互に補完するものだと孫氏は考える。

FTTHの利活用を進めるには?

 一方、NTTとNTTドコモは、業界を超えた多様なプレーヤーとコラボレーションすることで新たな価値を創出できると考え、「他の事業者に対して、不当に優先的な取り扱いをすること、干渉をすること」などの事前規制は、原則自由な「事後規制」にすべきと訴える。

photophoto さまざまなプレーヤーとのコラボを目指すNTTとNTTドコモ

 これに対して、田中氏と孫氏はもちろん異を唱える。

 「通信事業は設備産業であり、シェアの大きい事業者が価格決定権を持つので、競争が十分でないと規制が必要だと思う。固定市場の71%以上がNTTのシェア。またNTTは、政府から3分の1以上の出資を得ている。世界でもこんな企業はない」(田中氏)

photophotophoto KDDIがNTTの独占回帰を問題視する理由

 田中氏は、独占による中長期的な弊害として、イノベーションや新技術導入の遅れ、競争原理が働かなくなること、光回線の冗長化ができず脆弱(ぜいじゃく)なネットワークになることを挙げる。

 「データのトラフィックは、50年前はNTT 1社に日本の経済が依存していて、我々の生活にたいへんに寄与いただいた。ただ、これからの時代はNTT 1社に依存するのはいかがなものかと思う」(孫氏)

 2015年までの光ブロードバンドの利用率100%を目指す「光の道」構想で、ソフトバンクが提案した、NTT東西のアクセス回線を分社化する案が却下され、機能分離との結論となったことを孫氏は振り返る。そして2012年度のFTTH普及率は48%であり、FTTH整備率の98%から大きく隔たりがあることを指摘する。「NTTは、自分たちに任せてほしい、自分たちが一気に普及させるとのことだったが、結果は全くの約束違反で、(FTTHの)利用率は乖離(かいり)したままだ。NTTに依存した結果、(FTTHの)契約純増数も急激に減っている」

photophoto 「光の道」構想では、2015年にはFTTHの利用率100%を目指していたが、100%の普及とはかけ離れた状態が続いている

 NTT側はこれについて「整備は進んでいるが、利活用は進んでいないという認識は持っている」とコメント。「FTTHを使ってもらうために、ユーザー向けの料金や接続料金を含めてコストを下げる努力をしてきた。もう1つは、エンドユーザーや事業者の効率化につながる提案もしてきた。出来上がった基盤をどう活用するかの議論は、キャリアが利活用を促進するだけなのか? それを使ってプレーヤーの方々がどう効率化するのか? という観点で、それを阻んでいるものをどう乗り越えていくのか、ということではないかと思う」とし、NTT東西の構造的な問題とは論点が違うとした。

 孫氏は、FTTHが普及しない要因に、NTTの接続料が8回線単位(8分岐)で設定されていることを挙げる。ADSLは1回線ごとに接続料が設定されており、NTT東西のシェア(2005年)は39%に落ち着いたことから、孫氏は「競争が機能している」とみる。逆にFTTHの8分岐貸し出しでは競争が起きないので、「1回線単位での料金に改定してほしい」と強く主張する。「新幹線のチケットを8枚単位でないと売らない、というような売り方はどこにもない。回線の『束売りのみ』の抱き合わせ商法は、やめてほしい」(孫氏)

 この“8分岐問題”について孫氏は、質疑応答で「そんなバカな話がどこにあるか? しかも70%の市場支配率を持っていて、国が持っている会社が行っていい振る舞いではない」と息巻く場面も見られた。

photophoto ソフトバンク側は、光回線の貸し出しを8分岐としていることが、FTTHの導入が進まない原因に挙げている(写真=左)。また、NTT東日本の構造的な問題もあるとしている(写真=右)

 これに対してNTT側は「(光回線の)8分岐問題には、メタルと光の技術の違い、伝送や交換の方式の違いが基本的にある。8分岐貸しの課題は、サービスが均一化してしまい、各自事業者の独自性がまったく発揮されなくなるのではないかということ。光ファイバーは、1本の芯を8つの波に分けてデータを送ることで実現しているので、1分岐にした場合、残り8分の7のコストを誰が負担するのか。実現は難しい。その状況は何も変わっていないと思っている」とコメントした。

 また孫氏は、英国では外部の監視機関を設置し、オーストラリアとニュージーランドでは光アクセス会社を設立して構造分離を図ったことで、公正な競争を実現しているとし、日本でもこうした仕組みを取り入れるべきとも訴えた。

ドコモのらでぃっしゅぼーやへの出資は問題ない?

 NTTグループの規制撤廃について、「0か1は難しい。どの程度までなら許されるのか?」との質問が挙がった。

 孫氏は、NTTは国が事実上保有している会社で、グループが一体経営されていることを問題視する。田中氏は、NTT再編の際に、ドコモへの出資比率を下げる話があったが、実際は下がっていないこと、ドコモのシェアが40%を超えていることの2点を問題視する。さらに「MVNOの接続料金は、当社に比べてドコモは半額。それは当たり前。設備全体に対してお客さんの数で割るので、まともに戦えない。シェア規制があり、資本規制があるという本質論だと理解している」とも話す。現在のNTTグループの規模では、規制撤廃をすべきではないとの姿勢が見えた。

 一方で「何でもかんでも反対というわけではない」と田中氏。「例えば、ドコモさんが出資された野菜の会社(らでぃっしゅぼーや)。そういうのは別にいいんじゃないかと思うが、同じルールの中で、例えばGoogleさんやAmazonさんと排他的な契約を結ぶと問題。何がよくて何が悪いのかは議論すべきだと認識している」とした。

 NTTドコモ 取締役常務執行役員 経営企画部長の吉澤和弘氏は「資本の割合は、私からは申し上げられない」とコメント。上位レイヤーとのあり方については「少しやり方がある」と反論。「上位レイヤーの動きはすごく速いので、半年、1年後にどうなっているかは分からない。(AmazonやGoogleなども)どんどん進展するので、仕分けをしても、追いつかないと思っている。自由なコラボで新しい価値を作っていくことが重要だと思う。そういう面も含めて、規制は撤廃していただきたい」


 今回のヒアリングは、予定の時間をオーバーしても各委員や審議官からの質問が終わらず、白熱したものとなった。また、KDDI田中社長とソフトバンク孫社長が図らずも“共闘”した形になったのも、普段はなかなか見られない光景だった。次回のヒアリングは4月22日に実施される予定だ。

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