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インタビュー

2016年の1500万契約を目指して――総務省 富岡氏に聞く、MVNO政策の展望と課題(2/2 ページ)

MVNOが順調に契約数を伸ばしているのは、総務省が取り組んでいる競争政策の成果でもある。MVNOは、今後どのような展開を見せるのだろうか。総務省でMVNO政策を担当する総合通信基盤局 電気通信事業部 事業政策課 企画官の富岡秀夫氏に聞いた。

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事業者間の乗り換えが課題

―― 先ほども挙げた全体の10%というMVNOの目標を達成する中で、何かまだ足りないことはあるのでしょうか。

富岡氏 「モバイル創生プラン(外部リンク参照)」の中で、2016年に1500万契約を掲げています。実際には、2013年9月末と2014年9月末の数字を比べると、MVNOの契約者数は1年間で40%近く増加しています。このペースが維持されれば、2016年の1500万契約は達成できる数字だと思います。当然このペースが維持されるかどうかは、まだ分かりませんが。

 課題もあります。1つが事業者の乗り換えです。先ほどお話したように、MVNOは新しいマーケットという部分もありますが、別の事業者からの乗り換えも多いであろうと考えると、そのハードルを下げていくことが重要になります。そこには端末の問題があって、たとえばMNOからMVNOに乗り換える時に、新しい端末を買わなければいけないとなるとハードルが高くなります。

 MNOの場合、キャッシュバックでハードルを下げていますが、MVNOは規模が小さくそれができません。そもそも、キャッシュバックは長期利用者にとって公平な仕組みではありません。そのために、ガイドラインを改定しましたが、SIMロック解除が一般化すると、端末の面で事業者の乗り換えのハードルは下げることができます。

―― 現状だと、ドコモ系のMVNOが多く、ドコモからの乗り換えであれば端末の買い替えは必要ありません。それは、他事業者からの乗り換えや、その先に、MVNOが自前のSIMカードを発行する(HLR、HSSを自前で持つ)ことを見すえての施策ということでしょうか。

富岡氏 KDDIやソフトバンクのネットワークを使ったMVNOが今後増えていくとなると、ドコモ端末が解除しなくても使えるからSIMロックを解除しなくてもいい、とはなりません。

 一方で、HLR、HSS(Home Subscriber Server:HLRのLTE版)については、情報通信審議会の答申でもありましたが、まずは事業者間の協議であろうと思っています。お互いに、お互いの言い分がありますからね。技術的な問題もあるとMNOはおっしゃっていますし、無理なものを無理強いするわけにはいきません。ネットワークのアンバンドルについては、機能にいくつかの段階があります。今、ガイドラインで注視すべき機能を入れていますが、そこにHLR、HSSを位置づけるかどうかは、事業者間協議を踏まえて決定します。ですから、その部分はすぐに変わるわけではありません。

auのVoLTE端末に他社のSIMを挿すと緊急通報できない可能性も

―― 現状だと、SIMロックを解除しても、例えばKDDIの端末がドコモで使えない(逆もしかり)など、課題が残っています。その点は、どうお考えでしょうか。

富岡氏 SIMロック解除の問題意識として、事業者の乗り換えにあたってのハードルを下げるということがありましたが、今進めている背景の1つに、通信方式の違いがLTEで解消されてきたということがあります。他方で、周波数については、各キャリアによって異なっているという問題が残ります。また、APNロックでテザリングができない(MNOの端末だとテザリング時に専用APNにつながる仕組みのため、MVNOで利用できないケースが多い)問題も指摘されています。

 改正ガイドラインでは、事業者は、SIMカードの差し替えで通信サービスの全部または一部が制限される可能性が存在することに対し、利用者が理解できるように努めることを求めています。利用者が分かった上で利用することが重要です。

 端末ごとの対応周波数が異なる点については、総務省と事業者が話し合いをしているところです。SIMロック解除対応端末が出てくるときは、分かりやすい形になっていると思います。

 このように、最後は利用者周知ということになりますが、技術的な課題についてはなるべく解決できるよう、対応を促したり協議をしたりしています。例えば、実はあまり知られていないのかもしれませんが、今のKDDIのVoLTE端末にドコモやソフトバンクさんのSIMカードを挿すと、緊急通報ができない可能性があります。今のところ、彼ら(ドコモ、ソフトバンク)の緊急通報はVoLTEで飛ばないため、3Gにフォールバックします。一方で、KDDI端末はそれ(UMTSの3G)に対応していないこともあるため、このままでは緊急通報ができないという課題が残ります。そういうところについては、なるべく早く解決できるよう、事業者と話し合いをしています。

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VoLTE対応のau端末+他社のSIMでは緊急通報ができない可能性がある

―― APNロックの件についてはいかがでしょうか。

富岡氏 この件については、まず事業者同士で話し合いをしていただければと思います。

―― SIMカードによっては、特定のIMEI(携帯電話の製造番号)でネットワークに接続できないようになっています。これで実質的なロック状態になってしまうのではないかという見方もあります。

富岡氏 その点は、先日のIIJのイベントで質問されて、初めて気がつきました。現状がどうなっているのかの分析を始めているところです。

MVNOの接続要求を拒否することはできる

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―― MVNOがここまで伸びてくる中で、例えば、速度制限なしで完全定額をうたいながら、実際には非常に遅くて使い物にならないという話も出てきています。また、それ以前に、反社会的な会社も現状だと接続できてしまう点は、どのように考えてらっしゃるのでしょうか。

富岡氏 品質という点でいえば、音声サービスは社会的な機能も踏まえ、技術基準により一定の品質を確保することになっていますが、データサービスは多くがベストエフォートで、規制は特段行っていません。基本的には競争の中で、利用者の選択を通じて、品質の向上が図られることが望ましいと考えています。

 ただし、その前提となる広告などでうたわれる品質と乖離(かいり)しているという声は、消費生活センターなどにも寄せられています。それを踏まえ、利用者が正確な情報に基づく選択ができるよう、事業者中立的な計測方法による実測値を表記するといった方策の検討が必要という提言が示されたところです。ですが、まずはMNOを対象として検討しています。MVNOについては、おっしゃられたような問題意識は持っていますが、今後の検討課題ですね。基本的には利用者が適切に選択できる環境を整備していくことになります。

 反社会的な会社との接続については、一般論として、あまりにおかしなMVNOが接続請求をしてきたら、電気通信事業法32条2号の解釈で、拒否することができるようになっています。2012年にMVNO事業化ガイドラインを改定し、このことを明確化しています。

―― 接続という制度に対して、ドコモはやめたいというような主張もしていました。こちらについてのご見解をお聞かせください。

富岡氏 接続と卸は、それぞれ一長一短があります。接続の場合、応諾義務はありますが、料金や条件は約款ベースで固まっています。他方の卸の場合は、MNO側に応諾義務がない代わりに、料金や条件について柔軟に交渉できます。両者の特性を踏まえ、接続や卸の選択を行えるわけで、現状では両方が使われており、むしろ接続が使われるケースの方が少ないという印象を持っています。これについては、モバイル市場の公平競争確保の観点から、どちらか一方にするのは適当ではないと考えています。

 変な会社が接続してきたらどうするのかという意見もありましたが、先ほどお話ししたとおり、合理的な理由があれば拒否できる場合があります。逆にドコモさんに課された禁止行為規制を緩和し、グループ外の事業者であれば柔軟に対応できるよう制度改正を行う予定です。そういったところを、トータルで考えるといいのではないでしょうか。

取材を終えて:MVNOがどれだけ差別化できるのかも重要に

 MVNOを通じて競争政策を促進するというのが、総務省の考えだ。現状を見ると、MVNOが多彩なプランやサービスを市場に次々と投入しており、もくろみ通りの結果になっていることが分かる。富岡氏が述べていた通り、このペースでMVNOが増加していけば、2016年の1500万契約は達成できるのではないだろうか。

 一方で、契約者数の増加に伴い、やはりトラブルも出てくるように感じている。上で述べたように、中にはスループットが十分に出ないにも関わらず、MNOと同じ品質をうたうMVNOもあり、何かしらの規制が必要に感じる。急成長している市場だからこそ、そこに歩みを合わせて対策を立てていく必要があるだろう。

 また、今のMVNOを見渡すと、料金はどんぐりの背比べのような状態になっている。品質での差はあるものの、サービスでの差別化も十分できていない。ネットワークのさらなる開放によって発展の余地があるのであれば、ぜひ検討を進めてほしい。こうした動きを後押しするためにも、ネットワークの開放によって何がどこまでできるようになるのかを具体像として示すことが、MVNO側にも求められそうだ。

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