米Microsoftの第4四半期(4〜6月期)売上高は160億ドル4000万ドルと、多くのアナリストの予測を上回った。これは、少なくともソフトウェアを購入する一部業界では、この30年間で最も深刻な世界的不況から徐々に立ち直りつつあることを示すものだ。しかしこの数字を深く分析すれば、奇妙な二律背反が浮かび上がってくる。クラウドコンピューティングに対するMicrosoftの全面的なアプローチにもかかわらず、同社の繁栄は相変わらず、最も伝統的なIT分野、すなわちデスクトップに固く結び付けられているということだ。
「クラウドをめぐるMicrosoftのメッセージは次第にアグレッシブになってきたが、前四半期の主要な収益源となったのは同社の伝統的ビジネスだ」――米Technology Business Researchのアナリスト、アラン・クランス氏は、7月22日付のリサーチノートにこう記している。「先行き不透明な景気状況にもかかわらず、Windows 7とOffice 2010が同社の売り上げ拡大に大きく貢献した」
Microsoftは7月22日の収支報告で、昨年10月にWindows 7をリリースして以来、同OSを1億7500万ライセンス販売したことを明らかにした。MicrosoftのWindows部門全体の売り上げは45億ドルで、前年同期の32億ドルを大きく上回った。クランス氏の推定では、旧バージョンのWindowsで動作するPCがWindows 7に移行するのに伴い、Microsoftは向こう数年でさらに500億ドルの売り上げを期待できるという。
Microsoftのビジネス部門の売り上げは53億ドルだった。これは、数四半期にわたってIT予算を切り詰めてきた大企業および中堅・中小企業の間でソフトウェアへの支出意欲が高まってきたことを示唆するものだ。Microsoftは前四半期にOffice 2010をリリースしたが、この次世代プロダクティビティスイートが同社の収益に与えるインパクトが明らかになるのは、しばらく先になりそうだ。
しかしMicrosoftのクラウドプラットフォームであるAzureは、同社の収益にそれほど貢献しなかった。これについて同社は、リリースしたのが最近であることを理由に挙げている。
「Azureに関しては、まだ日が浅いため、今年は収益に実質的な影響はない」とMicrosoftのピーター・クラインCFO(最高財務責任者)は収支報告の電話会見で語った。
7月に開催されたMicrosoftの「Worldwide Partner Conference(WPC)」において同社は、企業のITインフラを同社のホステッドクラウドに移行するための“サービスとしてのIT”製品を紹介した。さらに同社は「Windows Azure Platform Appliance」も発表した。これは、Windows Azureのクラウド開発機能を企業のデータセンターに提供するというサービスだ。しかし米TechTargetなどによる最近の調査では、IT管理者たちはセキュリティなどに対する懸念から、クラウドの採用に対して依然として慎重な構えを示している。このため、業界全体でのクラウドの普及には時間がかかりそうだ。
「クラウドの普及が進んでいると数年前から言われているが、この新技術に対して企業が抵抗を感じないようになるには時間がかかるだろう」とクランス氏は指摘する。「Microsoftはクラウドへの取り組みとその宣伝に力を注いでいるが、かなり長期にわたって既存ビジネスが同社の収益を支えることになるだろう」
MicrosoftがWPCで熱心にアピールしたように、同社のクラウド構想推進に当たってはパートナーが重要な役割を果たすことになりそうだ。
「クラウドコンピューティング成長の最初の波をリードしたのは、Google、Amazon、salesforce.comといった直販主体型ベンダーだ。しかしクラウドコンピューティング普及の次の波の推進では、パートナー企業が非常に大きな役割を果たすと思われる」とクランス氏は記している。「Microsoftはいち早くこのチャンスをとらえようとしている。IBMやCiscoなどの企業も、それぞれのクラウド戦略にコミットするパートナーの確保を目指して競っている」
「企業がクラウドに移行する中で、組織としてのMicrosoftの戦略的資産で最も価値が高いのが同社のパートナーチャネルであり、同社はこれを手放すわけにはいかない」とクランス氏は付け加える。Microsoftがパートナープログラムでクラウド専用の新たなコンポーネントとして発表した「Cloud Essentials」と「Cloud Accelerate」は、クラウドパートナー獲得の取り組みに貢献しそうだ。「クラウドを前面に打ち出しているITベンダーは少なく、Microsoftはこの初期の段階で一歩先んじている」と同氏。
Microsoftは当分、主力製品と従来チャネルに頼る必要があると指摘するアナリストもいる。クラウド以外の同社の最近の構想は、収益面で成果を生み出す段階には至っていないからだ。
米Jefferiesのアナリスト、キャサリン・エグバート氏は、7月19日付のリサーチノートに「Kinect(旧Project Natal)の効果が現れる段階ではまだない。この製品は11月初頭に出荷が始まる予定だ」と記している。「検索エンジンのBingやクラウドサービスのAzureはこのところ市場シェアが拡大し、新規顧客を獲得しているが、収益には大して貢献していない。Office 2010でさえも、本格的に立ち上がるまでにはしばらく時間がかかるだろう。とはいえ、会計年度末にOffice 2010を含むボリュームライセンス契約が急増して前受け収益に貢献する可能性がある」
言い換えれば、Microsoftの頭はクラウドに入っているかもしれないが、本体は依然としてデスクトップに結び付けられたままだということだ。
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