米Googleが今後3年間で米Mozilla Foundationに支払う契約金は年額3億ドル――昨年末、Firefoxのデフォルトの検索エンジンをGoogle検索にするための契約金額に関する報道が話題となった。Google ChromeのシェアがFirefoxを超えて2位となった中、前回を大きく上回る契約金額の理由についてさまざまな憶測が飛び交った。
「契約内容について詳しいことは言えないが」――こう切り出したのは、Mozilla Foundationで常任理事を務めるマーク・サーマン氏。サーマン氏によれば、「契約内容はWebブラウザのマーケットシェアとは全く関係ない」という。
同氏は契約内容に関してそれ以上の言及は避けたものの、(1)少なくとも今後3年間は(Googleからの契約金を中心とした)安定した資金が確保できていること、(2)Mozillaの収益はGoogleからの契約金が全てではないこと、(3)寄付金やチャリティーなどによる収益が過去2年間で5倍以上に増えていること――を挙げ、今後3年間のうちにGoogleからの契約金以外の収益体制を強化していくという姿勢を示した。
ではMozillaは今後、確保した資金を使ってどのような活動に取り組むのか。2012年における重点施策の1つとしてサーマン氏が説明するのが、モバイル分野における取り組みだ。
「かつてInternet Explorerがシェアを独占していたPC向けWebブラウザは(FirefoxやChromeが登場したことで)他の選択肢ができたが、モバイルの世界ではまだ独占的な技術がない。言い換えれば今後、限られたデバイスでしか使えないようなクローズドな技術が出回ってしまう可能性があるということだ。それはWeb全体にとってさまざまな不利益があるので、われわれはモバイルの領域でもオープンな標準技術の推進に向けてチャレンジしていく」
Mozilla自体もFirefoxのスマートフォン向けアプリを出しているものの、例えばiOSにおけるSafariなどと比べて十分なシェアを獲得できているとは言いがたい。こうした中、「Firefoxをインストールしてもらうことは望ましいが、スマートフォンにおいてはWebブラウザも多数のアプリの中の1つ。最も重要なのはスマートフォンアプリのプラットフォームとしてHTML5が広く使われ、iOSでもAndroidでも動作するアプリが多く作られていくことだ」とサーマン氏。そのために、Mozillaはスマートフォン向けOS開発プロジェクト「Boot to Gecko」などを通じ、HTML5を使ったアプリの普及を支えるプラットフォーム作りに注力していくという。
さらに、HTML5の普及を推進するための2012年の重点施策としてサーマン氏が掲げるのが、Webを“使いこなす”人材育成プロジェクト「Web Maker」だ。
Web Makerは、小中学生などがWebの仕組みを学び、HTML5などのオープンな規格を使ってコンテンツを作れるようにするためのプロジェクト。具体的には、ハッキング体験ツール「Hackasaurus」やHTML5の動画作成ツール「Popcorn」などを日米の教育機関に向けて広く提供していくことを目指す。
Hackasaurusは、Webブラウザのブックマークレットとして動作し、任意のWebページ上の要素を自分の好きなように書き換えられる――というプログラム。例えばGoogleのトップページのロゴを好きな画像に置き換えるといった使い方が可能で、「子どもたちがWebの仕組みを理解するきっかけになるだろう」とサーマン氏は期待する。またPopcornは、任意の動画を基に字幕入りのHTML5のビデオを作れるというツール。学校教育用プログラムとしての利用などを期待しているという。
また今後は、プログラミング言語などを習得した人に向けてMozillaの認定バッジを交付するというプロジェクトや、映画作成者やジャーナリストなどに向けて学習プログラムを提供するプロジェクトなども実施していくという。
「これまで多くの人々は、まるでテレビを見るかのようにWebをただ使うだけだった。今後は自らインターネットの形作りに貢献できるような人々を育てていきたい」とサーマン氏。Mozillaとしては、スマートフォン分野でHTML5を普及させるためのプラットフォーム開発に注力しつつ、教育分野のプロジェクトによってHTML5コンテンツのクリエイターを養成することで、同団体が目標とする「オープンなWeb作り」を推進していく考えだ。
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