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企業向けソーシャルは「本物じゃない」――サイボウズの“対Facebook”戦略

» 2012年06月27日 12時35分 公開
[本宮学,ITmedia]

 TwitterやFacebookの爆発的な普及を背景に、企業内でも情報共有などのためにソーシャルツールを活用しようとする動きが活発化している。6月25日には米Microsoftが企業向けソーシャルサービスを手掛ける米Yammerの買収を発表するなど、“企業内ソーシャル”に向けるITベンダーの熱い視線はしばらく続きそうだ。

photo 青野社長

 こうした中「企業向けソーシャルはバズワード的なもので、本物じゃない」と話すのは、サイボウズの青野慶久社長。同社は2008年から企業向けブログサービス「サイボウズブログ 2.0」を提供していたものの、2011年3月には販売を終了、2012年3月にはサポートも終了している。その理由を青野社長はこう振り返る。

 「(サイボウズブログは)思ったよりも売れなかった。当社内では今でもサイボウズブログを使っているが、社員が投稿するのは社内イベントなどの話ばかりで、仕事の話はほとんど出ていない」

 Yammerなどの企業向けソーシャルサービスも、サイボウズブログと同様に、ちゃんと仕事に活用できるユーザー企業はそう多くはないのでは――というのが青野社長の見方だ。また、こうした企業向けサービスはやがて、Facebookなどの一般ユーザー向けソーシャルメディアの1つの機能として取り込まれていくのではないかと青野社長はみる。

 「サイボウズが本当に戦うべきは、YammerではなくFacebook」と青野社長は表現する。一般向けソーシャルメディアが企業向けソーシャルサービスを飲み込むまでに成長した時、サイボウズはどう戦っていくべきか――そんな“次の戦略”を、青野社長は見据えている。

サイボウズはFacebookの“逆”を行く

 青野社長は「今後Facebookなどが(企業向け分野に)伸びてきても、サイボウズは立ち位置を作れる」と強調する。「Facebookはコンシューマーを向いているので、ビジネスの深いところは追えないだろう。サイボウズ製品は従業員のタスク管理が根底にある」

 例えばグループウェア製品「サイボウズ Office 9」では、複数の従業員が閲覧できる簡易データベース機能「カスタムアプリ」を搭載。単なるスケジュール管理にとどまらず、従業員間の“タスクの共有”を支援しているという。

 また、ユーザーへの情報の見せ方も工夫している。青野社長によれば、Facebookなどの一般向けソーシャルメディアでは、個人宛てに届いたメッセージなどがそのまま通知される場合が多く、結果的に従業員の仕事の阻害要因にもなりうるという。一方、サイボウズ Officeでは「フィルタリングによって本当に必要な情報だけを通知する」ことで、ユーザーが仕事に集中しやすい環境を提供しているという。

 「Facebookの戦略はユーザーのサイト内滞留時間を長くすることだが、サイボウズの狙いは滞留時間を短くすること」と青野社長。ユーザーに“本業”に集中してもらうため、サイボウズでは「ユーザーが今すべきことが分かり、時によってはお尻を叩いてくれる」仕組みを提供していく考えだ。

「もうグループウェアの会社じゃない」

 また、ITツールによるスケジュール管理が当たり前になりつつある今「グループウェア業界も変わらないといけない」と青野社長は考える。

 同社はサイボウズ Officeや「Garoon」などのグループウェアをはじめ、業務アプリケーション作成プラットフォーム「kintone」などさまざまな製品を提供している。青野社長によれば、サイボウズ製品全てに共通するのは導入企業の従業員同士の「コラボレーション」を支援する点だという。

 「例えば米Appleはハードウェアもソフトウェアも作っているが、何の会社かといえば“デジタルエンタテインメント”の会社。そのような切り口を持っていかないといけない」と青野社長。サイボウズでは、自分たちがユーザー企業に提供するのは「チームコラボレーション」というように、製品戦略のポリシーを定めているという。

 こうした中で青野社長が事業拡大のために期待するのは、同社製品をクラウド型で提供するサービス「cybozu.com」だ。同サービスは2011年11月の提供開始以来、約6カ月で導入企業1000社を突破したという。現時点で収益面は赤字だというが、「トップが信じて旗を振るしかない」と青野社長は自信を見せる。

 「社内では『もうグループウェアの会社じゃない、われわれはチームコラボレーションの会社だ』と言っている」と青野社長。2013年にはcybozu.comを引っさげて「再び米国市場に打って出る」予定もあるという。同社は今後、チームコラボレーションサービスのグローバル企業を目指していく考えだ。

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