マスクド AIの本はいまだに刊行され続けていますよね。技術書はもちろん、ビジネス書も後を絶ちませんね。ただし事例本に載っているのは、大企業のごく一部の成功事例です。自社にも応用できるかどうかは難しい。「事例があるから私たちでもいけるんじゃないか」って勝手に妄想してる企業は多いですよね。
田中 事例があっても、そのやり方のままじゃうまくいきませんよ。持っているデータは会社によって違うんですから。僕がAIのセミナーを開くときは、口を酸っぱくして「データをどうためるかを考えろ」と言います。データ次第で何ができるか変わるのですから。
マスクド データの蓄積先が社内データベースという会社はいまだに多いじゃないですか。秘伝のタレみたいに、(データベース上で)テーブルやカラムを継ぎ足しているから管理だけでもすごく大変なのが実情でしょう。
昔からデータを蓄積している会社ほどディープラーニングをやっていくべきなんですけど、全く動きがないですよね。ポイントカードやクレジットカードの会社は、どれだけデータがたまっているのだろうなと。
田中 非常にもったいないですね。確かにそうした企業はビジネスチャンスを逃していますね。
マスクド 多分データはあるんですけど、使えるデータが少ないんですよ。例えば製造業で機械の故障予知をやりたいと言われてデータを調べたら、そもそも故障したときのデータがたまっていないんですよね。何のデータが必要なのか分かっていない。
田中 さっきの話に戻るんですけど、ビジネスの理解なんですよね。金もうけをできるデータサイエンティストか、データを読める金もうけが得意な人。両方を横断する能力が必要なんですよ。
―― AIを使って金もうけをするのはまだまだ難しい。
田中 2016年ぐらいの世間の認識は、どんなに難易度が高い内容でも「そんなのAIなんだから勝手にできるでしょ?」だったでしょう。しかし、いろんな会社がPoC(概念実証)を進めた結果、2018年になって意外とそれが難しいのが伝わりました。今年くらいからは、いろんな会社の本気度が試されるようになりますよ。それでもAIをやるのか、あるいはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など違う技術に目移りするのか。
田中さんもマスクドさんも、まだまだ話し足りなそうな顔をしていましたが、2時間たっても話が尽きなそうだったので強制終了させていただきました。世界を変える技術に社会実装が追い付かないのは、AIに限らず古くからある話ですが、もっとAIなど世の中を変える技術に企業や社会が追い付いていってもよいのではないかとも感じています。
インターネットがまだ「PCオタクのもの」だった頃、家の中に「You got mail」という声が響くたび、親が「いつまでインターネットしてんの! タダじゃないんやで!」と怒っていたものでした。それが、いまでは1人1台スマートフォンを持つことが当たり前の時代になってきています。きっとAI自体も、10年後、15年後に「そういえば昔、AIが人類を滅ぼすといわれていたが……」などという笑い話になっているのでしょうか。
最後に、田中さんとマスクドさんに対談の感想をお伺いしてみました。
「オレたちがチャンピオンだ、永遠のな!」(田中)
「1+1は2じゃないぞ。オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍」(マスクド)
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
今最も注目を集めるデータサイエンティストの1人が、データの読み方に注目して「うそを見抜く技術」を解説します。世論調査の結果はなぜ各社異なるのか? アベノミクスによって景気は良くなったのか? 人手不足なのにどうして給料は増えないのか? 「最近の若者は……」論の誤り、本当に地球は温暖化しているのか? などなど。
新時代の教養「データサイエンス」の入門書として、数学が苦手な人、統計学に挫折した人にも分かりやすい一冊に仕上がりました。詳細はこちらから。
他に共著で人工知能における5年、10年、20年の展望を解説している「誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性」も。
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