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「AI人材がいません」「とりあえず事例ください」 困った依頼主は“本気度”が足りない AIベンチャーの本音これからのAIの話をしよう(AIベンチャー対談編)(4/4 ページ)

» 2019年03月06日 07時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]
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マスクド  AIの本はいまだに刊行され続けていますよね。技術書はもちろん、ビジネス書も後を絶ちませんね。ただし事例本に載っているのは、大企業のごく一部の成功事例です。自社にも応用できるかどうかは難しい。「事例があるから私たちでもいけるんじゃないか」って勝手に妄想してる企業は多いですよね。

田中 事例があっても、そのやり方のままじゃうまくいきませんよ。持っているデータは会社によって違うんですから。僕がAIのセミナーを開くときは、口を酸っぱくして「データをどうためるかを考えろ」と言います。データ次第で何ができるか変わるのですから。

マスクド データの蓄積先が社内データベースという会社はいまだに多いじゃないですか。秘伝のタレみたいに、(データベース上で)テーブルやカラムを継ぎ足しているから管理だけでもすごく大変なのが実情でしょう。

 昔からデータを蓄積している会社ほどディープラーニングをやっていくべきなんですけど、全く動きがないですよね。ポイントカードやクレジットカードの会社は、どれだけデータがたまっているのだろうなと。

田中 非常にもったいないですね。確かにそうした企業はビジネスチャンスを逃していますね。

マスクド 多分データはあるんですけど、使えるデータが少ないんですよ。例えば製造業で機械の故障予知をやりたいと言われてデータを調べたら、そもそも故障したときのデータがたまっていないんですよね。何のデータが必要なのか分かっていない。

田中 さっきの話に戻るんですけど、ビジネスの理解なんですよね。金もうけをできるデータサイエンティストか、データを読める金もうけが得意な人。両方を横断する能力が必要なんですよ。

―― AIを使って金もうけをするのはまだまだ難しい。

田中  2016年ぐらいの世間の認識は、どんなに難易度が高い内容でも「そんなのAIなんだから勝手にできるでしょ?」だったでしょう。しかし、いろんな会社がPoC(概念実証)を進めた結果、2018年になって意外とそれが難しいのが伝わりました。今年くらいからは、いろんな会社の本気度が試されるようになりますよ。それでもAIをやるのか、あるいはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など違う技術に目移りするのか。

対談を終えて

 田中さんもマスクドさんも、まだまだ話し足りなそうな顔をしていましたが、2時間たっても話が尽きなそうだったので強制終了させていただきました。世界を変える技術に社会実装が追い付かないのは、AIに限らず古くからある話ですが、もっとAIなど世の中を変える技術に企業や社会が追い付いていってもよいのではないかとも感じています。

 インターネットがまだ「PCオタクのもの」だった頃、家の中に「You got mail」という声が響くたび、親が「いつまでインターネットしてんの! タダじゃないんやで!」と怒っていたものでした。それが、いまでは1人1台スマートフォンを持つことが当たり前の時代になってきています。きっとAI自体も、10年後、15年後に「そういえば昔、AIが人類を滅ぼすといわれていたが……」などという笑い話になっているのでしょうか。

 最後に、田中さんとマスクドさんに対談の感想をお伺いしてみました。

 「オレたちがチャンピオンだ、永遠のな!」(田中)

 「1+1は2じゃないぞ。オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍」(マスクド)

著者プロフィール:松本健太郎

株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。

著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org


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