ITmedia NEWS > セキュリティ >
セキュリティ・ホットトピックス

「笑い男」事件は実現可能か 「攻殻機動隊 S.A.C.」好きの官僚が解説アニメに潜むサイバー攻撃(7/12 ページ)

» 2019年05月24日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: 最近は見なくなりましたが、昔はメールで添付ファイルを送ると、サーバの送信可能なサイズを超えたら添付ファイルが分割して送られることがありました。分割して送られると、古いウイルス対策ソフトでは検知できなくなったり、さらに暗号化されていたりするとなおさら検知が難しかったのです。S.A.C.ではこういったレトロな手が時々使われていて、シリーズ3作目の「Solid State Society」でも、音響カプラーのような低転送レートの音響による耳経由の攻撃が行われていました。「ピーガー」というやつですね。

K: 最近では音響カプラーを知らない人も多いのでは……。

F: うちにはまだありますよ、音響カプラー。もう対応する電話機がありませんが(笑)。さて、この時の攻撃を読み解く手かがりは、草薙少佐のこのせりふにあります。

 「定時連絡に乗せた遅効性であるところを見ると、可能性は2つ。暗号変換キーを持っている指揮官クラスか、それ以外の全員だ!」

 SPの通信に入り込んでいるところを見ると、ナナオ=Aが送信したメールはどこかの、おそらく警察内部が意図的に作ったバックドアを経由してVPNのような機密回線に入り込んでいます。その回線の中では写真や音声などの捜査情報がやりとりされ、一般の捜査員を含む全員向けには速度優先で暗号化せず送信、指揮官クラスのみが機密性が高い情報をやりとりするためには専用の暗号キー(秘密鍵と公開鍵)を使った方式で送信し、いずれも受信すると自動再生されると想定しましょう。

 ナナオ=Aは警察内部から入手したSP指揮官の公開鍵を使って暗号化したウイルスをSP全体に無差別に送り付け、SPの電脳の中では分割メールがそろったら添付ファイルが自動的に再構築される。その上で指揮官用の秘密鍵(暗号変換キー)を持っている者だけが、この暗号化を解除でき自動的にウイルスを含んだ資料が再生されることで、感染したのではないでしょうか。いくら機密回線とはいえ、警察内部からの手引きが絡んでいるので、もうやりたい放題ですね。ハッキングというよりは機密性の高いネットワークには攻撃者が侵入しない前提という、想定の甘い仕様を突いた攻撃ですね。

K: SPたちは油断しすぎでは……。

F: まぁ大抵の組織は内部からの攻撃に弱いですからね。

 次に、殺害予告時の笑い男マークですが、Kさんに質問があります。この殺害予告をした者とは誰でしょう? 街頭生放送に現れた人物でしょうか?

K: え? なんでそんな当たり前のことを聞くんですか?

F: ……。この2つの笑い男マーク登場シーン、実はつぶさに見ると、ある大きな点が異なります。

K: ええ?

F: 気付いてないですね。じゃあこれも後回しにしましょう。

photo (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

続 第2幕・多数の笑い男はどのように生まれたのか

F: 次の要素、「次々と現れた笑い男たち」です。

K: これは劇中にもありますが、サイバー攻撃ではありませんよね。

F: Kさん、電脳もない現代、直接的に相手に関与せず、洗脳も薬物を使用せず、たった数分以下の放送もしくは同等の出来事を通じて、誰かを銃をぶっ放すレベルの物理的なテロに走らせることはできると思いますか? 長い時間を掛ければ、ISISなどのテロリストの勧誘はありますが、あれだってリクルーターが直接関与していることが多い。ですからそういった例を除いてです。

K: いやぁ、さすがに無理でしょう。

F: でも実例はありますよ。しかも最近。

K: えええ!?

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.