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「笑い男」事件は実現可能か 「攻殻機動隊 S.A.C.」好きの官僚が解説アニメに潜むサイバー攻撃(5/12 ページ)

» 2019年05月24日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: 失敬。思考と発声以外のデバイスを切り離してダイレクトにしゃべっているもので。具体的には証拠やアリバイに関して、例えば「ここにクルマが停まっていたはず」とか、「そのクルマのナンバーを覚えている」とか、あるいは、何かのものに対して「それは昨日、机の上にあった」と誤認識させることなど、静止物にまつわる記憶への攻撃は割と早く登場する気がします。

 人間の脳の中の記憶の直接操作ではなく、先ほどのテレビの例と同様にデバイスを通して類似のものを人間の脳に誤認させるのは、今でも可能ですし複雑ではありませんから。「そこに存在していて違和感がない場合」や「初めて見る場合」だと、それがするりと記憶されるでしょう。脳における初期記憶の優位性は絶大です。第一印象と同じように。

 それに最近はAIが創造した架空の人間の顔写真が本物と見分けがつかなかったり、ディープフェイクという本人だとしか思えないフェイク動画が登場したりして、音声、静止画、動画のいずれも証拠能力を失いかねない未来が見えてきています。初めて見るものがフェイクだとしても、その瞬間に疑うことができなければ、それは脳の中で真実として記録・定着し、人は後にそれを否定することが難しくなるのです。そのような特性を逆手にとって攻撃され、記憶まで信頼できなくなったら世の中どうなるんでしょうね。考えるだけで背筋が寒くなります。

 印象などを排して証拠を慎重に吟味する裁判でも思考の操作、人間の脳の脆弱性に関する各種の情報攻撃により、物的証拠ではない人的証拠、証言や自白などはカオスになるでしょう。物的証拠でも、映像や音声などデジタル化可能なものは改ざんされる。ひいては社会の秩序を担う、法と証拠という両輪の片方がほぼ吹き飛ぶわけですから。

photo (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

F: ただ相当な大事件でも起こらない限り、人々はその危険性を認識しないでしょう。それこそ「笑い男」事件の第1幕のように世間を揺るがし、かつ目で見て衝撃的な事件が起こるまでは、私たちは何度も鮮やかに、うその情報で記憶を攻撃されるシーンを、個人、あるいは互いにスタンドアロンの集合体であるネット上のバーチャルな小クラスタ単位で味わうことになるんじゃないかと思います。そして、それが少数の人に対して行われた場合「そんなことあるわけないない」と信じてもらえないでしょうし、それゆえに「自分が間違っているかも」と考えるでしょう。攻撃する側は、まさにそこを狙って攻撃してくるでしょうし。

K: 頭がこんがらがってきました。

F: 「攻殻機動隊」を貫く哲学的なせりふの数々の、足元にも及びませんよ(笑)。

第2幕・笑い男、再び舞台へ?

F: 視覚といえばストーリーの序盤で、トグサの本庁時代の同期・山口が、警察内部の謀略に気付いて彼にクルマで会いに行く途中、視覚を奪われて交通事故を起こし死亡する話がありました。これは視覚信号の経路上に「インターセプター」という盗撮用の中間素子を知らない間に設置・操作されたため、視覚信号が遮断、目を見えなくされて起こった事件でした。

 現実なら、自動運転車を、雨天、カーブ、高架道路上で、システムダウンさせれば、同様なことができるんじゃないですかね。インテリジェントな車をハックする以前に、私、昔ハイブリッド車に乗っていたとき、下り坂で全システムダウン、エンジンストールを食らいましたから、ハックでなくても、高度なシステムのダウンは起こりうると思っています。

K: このインターセプター、「笑い男事件」の特捜部での不正設置がばれたのに、このあともハックされ続けて、他の警察関係者人たちは「自分も危ないかも」とか思わないんでしょうか?

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