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「笑い男」事件は実現可能か 「攻殻機動隊 S.A.C.」好きの官僚が解説アニメに潜むサイバー攻撃(4/12 ページ)

» 2019年05月24日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: 確かに、この部分に関してはそうです。だからあぜんとしたのは、そこではありません。似顔絵ですよ。劇中で目撃者はこの笑い男マークを、自信をもって犯人の似顔絵であるとして描いたとの描写があります。のちに公安9課のメンバーであるトグサも、同じことをやられていました。

 ここで注目すべきは、この「絶対に人間の顔に見えないマーク」を「自信を持って人間の似顔絵である」と、複数の目撃者が証言していることです。それはデータの偽造や記憶の改ざん、上書きではなく、人の顔というものに対する「認識」の操作です。

 さっきの視覚を構成する部品が、少数機種しかないが故にハックしやすいのに対して、人間の脳は一人一人千差万別で、仮にそういったことが可能であっても、プログラムで一気に書き換えはできません。人間の脳はいうなれば、それぞれが別々のOSやプログラム言語で動く、画一化されていない装置ですから。むしろこの部分を、破綻無く、永続的になるように、そして複数の人物が寸部違わぬ同じ答えを出すように、やってのけたということの方が驚かされました。

 Aという人の顔をBという人だと認識させる程度ならば、現在でもテレビの誤報により、他人を犯人だと認識させられてしまう例にもみられますが、さすがに「描かせる」「見させる」の両方で全く同じ「マーク」を「生身の人間の顔」だと認識させるとは、すごいですよ。各人の電脳をハックしてさらに認識プロセスまでハックできるなら、ありとあらゆる「認識」をゆがめてしまえるわけですから。

photo (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

F: これは事件後、即座に似顔絵を描かせたという描写はなかったので、例えば視覚をハックした脆弱性から人間の電脳部分に侵入し、そこから目撃者たちも認識できない状態で、生身の脳に対して時間をかけて、このマークを笑い男の顔であると、繰り返し刷り込む訓練プログラムでも走らせたんじゃないでしょうか。人間の脳は、HDDのように一瞬で書き換えができたように見えても、過去のデータが残っていてゆらぎとなるので、前データを完全に消すには複数回上書きする必要があります。脳にも同様に、映像ありの睡眠学習的に繰り返し行って、マークを顔として定着させた、という感じかなぁ。

K: はぁ〜そんな手口があるとは。

F: 認識すべき対象が、常識的にその存在のありように違和感がなく、かつ初期書き込みできるならば、視界を全て覆う精度の高いAR(拡張現実)グラスが普及するとともに、記憶に対する攻撃が起こり得るでしょうね。

K: んん? 何ですって、何かだんだん注釈が必要なせりふになってきましたね。

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