F: 証拠を入手して9課に渡し、証言を得るために、当時の薬事審議会の会長で事件に関わった今来栖(いまくるす)を誘拐。またしても自分の口で証言をさせようとして、彼なりに頑張ったのですが、荒事に対する知識も備えもない中で、黒幕側に今来栖を殺害されてしまいます。彼いわく「コテンパン」になり、そして、自分が主導で9課を利用するのではなく、9課に託すつもりで、草薙少佐に接触。触発された草薙少佐が以後、独断で「笑い男」となるわけです。
事件後、アオイ君のもとに草薙少佐と荒巻課長が訪ねてきます。「自分は捕まるのか」という問いに荒巻課長は、「公式には笑い男のオリジナルは存在しなかったことになる」といい、存在しないが故に罪にも問われないことを示唆します。それどころか「9課の9人目のプレイヤーにならないか」とスカウトするわけです。結局アオイ君はYESといわなかったのですが、印象深い話でした。
K: 感動的な話ですが……これ、アニメの感想ですよね。
F: いえ、今話しているのは、ハッカーのリアルな生き様の話ですよ。PCの前に座れば世界の全てをハックできる荒唐無稽なハッカーの物語が多い中で、彼はある意味、技術はあるが体力もなくヘタレ、怖がりでおびえ、でも最後は意を決して、正義を貫くために立ち上がる。結果的に草薙少佐がその役割を担いましたが、自爆的な攻撃を考えていたかもしれません。それはトグサがストーリー終盤で、変わらぬくそったれな世界にいら立ち、単身、黒幕の一翼である与党の薬島幹事長に挑もうとしたことにも表れています。こうしてみると、スーパーハッカーではなく、実に等身大でリアルな若者でしょう。
K: それがリアルという意味だったんですね。
F: そしてトグサの行動、草薙少佐の行動、そしてラストの荒巻の行動も、全ては、アオイ君の熱から発した「思考性ウイルス」に接したときの、それぞれの立ち位置での症状なわけです。トグサは飲まれ暴発しかけ、草薙少佐は意志を継いだ理性的な実行犯になりました。おそらく最も同様なケースを見てきて免疫のあった荒巻は感染せず、逆にスカウトすることで、その言葉の裏に「お前がおびえる物理的な力となって守ってやるから、ワシの元で正義を貫くホワイトハッカーになれ」というメッセージを込めたのです。
そしてS.A.C.のすごいことは、この「思考性ウイルス」が、ストーリーの世界を出て現実世界をも侵食したことです。セキュリティ業界では、少なからずこのストーリー、アオイ君に影響を受けた人がいます。思考性ウイルスに感染し、その思考に常に、「お前が信ずるものは何か、お前はその信ずるものに対して目をつぶり耳を塞ぐだけか、信ずるもののために行動を起こさなくてもいいのか」というプロセスを差し込まれることになったのです。いい意味で「ハック」され「正義感」をその行動原理とする人々を生み出しましたわけです。日本だけでなく海外まで。
そして……。
K: ん、んん?( ゚д゚) … (つд⊂)ゴシゴシ……(;゚д゚) …(つд⊂)ゴシゴシゴシ
……!? Fさんの顔に、わ、笑い男マークがぁ!
F: そう、ワタシも。……私……我こそは! 我こそは「笑い男の模倣者」! 組織の権威を背に、国民に徹底的にサイバーセキュリティを打ち込まんとするモノ! その目的のために私はこの組織に潜り込んだ! この連載を読んで、ちょっとデモ面白いなと思ったモノは、既に「笑い男」の系譜の、「思考性ウイルス」に感染している! まんまとハックされたのだ! 諸君! 戦況は悪化しておる! さぁ、自らの周りにいるモノに「思考性ウイルス」を伝播し、世界にサイバーセキュリティを確立して、悪意のハッカーに立ち向かうのだ!
K: Fさん、ご乱心―――! オフゥ(ブツッ)
…………(暗転)
K: ……ハッ、あれ、ボク、寝ちゃっていましたか。あはは、すみません。
F: 大丈夫ですか? お疲れなのでは?
K: Fさんこそ大丈夫ですか、顔が青白いですよ。はははは。それに、何ですかその顔に書いてあるの? なになに 「I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those hackers」?
F: ……(潜伏していた私を表舞台に引きずり出し、再びモノを書かせようとした君も、既に感染していたのだよ)
K: ところでFさんが死に物狂いでモザイクかける状態になって作っていたのは何ですか?
F: この「小さな中小企業とNPO向け情報セキュリティハンドブック」です。
K: プッ、小さな中小企業って何ですか?
F: 正確には小企業とか小さな企業なんでしょうけど、これを見たい人はその言葉では検索してくれないので、あえて、ですよ。
K: おお、SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)ですか? なるほど!
F: 従来の黄色い本が一般国民の方、その家庭がターゲットだったのに対して、こちらは専任のセキュリティ担当者がいない小さな企業や、そもそも自分たちがサイバーセキュリティに取り組まないといけないことに気付いていないNPOの方向けに作られています。それに合わせて、個人情報保護、災害時の事業継続、クラウドを使ったテレワークなんて話題が、いつも通りかわいいイラストとともに満載です。半分ぐらいは黄色い本と重複していますが、一般の方々が見ても面白い内容になっていますよ。サプライチェーンのサイバーセキュリティ教育に困っている大企業の担当者にもおすすめです。
K: ほう、黄色い本も継続するんですか?
F: 継続します。ただし、アプリや電子書店は黄色い本だけなので、青いこの本は内閣サイバーセキュリティセンターのWebサイトからダウンロードしてください。
K: ところでなんで青いの?
F: タチコマカラーに決まってんだろ!
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