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「笑い男」事件は実現可能か 「攻殻機動隊 S.A.C.」好きの官僚が解説アニメに潜むサイバー攻撃(2/12 ページ)

» 2019年05月24日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

第1幕・衝撃の登場

F: ご存じの方も多いと思いますが、「笑い男事件」とは、S.A.C.シリーズ第1作の中核をなす事件です。

 「攻殻機動隊」のアニメは、S.A.C.の前にも押井守監督の手による映画作品がありました。士郎正宗さんの原作漫画と押井監督の映画は、「人形使い」という謎の知的生命にまつわる、電脳時代の命とは何かといった視点でしたが、S.A.C.はサイバー感あふれるポリスストーリーとなっています。もちろん原作のテイスト満載なのですが、原作と映画が電脳空間に生まれた生命と人という対比だったのに対し、S.A.C.では人対人の構図、「笑い男対公安9課」が軸になっています。ただしここでいう「笑い男」というくくりがくせものなのですが。

K: あらためて「笑い男事件」の概略が知りたいです!

F: はい。「笑い男事件」は、「笑い男」による、マイクロマシンメーカー「セラノゲノミクス」の社長、アーネスト・瀬良野氏の誘拐と、それに伴う身代金100億円と金塊100キロの要求に端を発します。それから3日後、犯人らしき男が瀬良野氏を引き連れて朝の街頭生放送に現れ、銃を突きつけ彼に何事かをしゃべらせようとして失敗し逃亡。その後、セラノ社の製造ラインに殺人ウイルスを混入し同社を脅迫、その結果セラノ社の株価が暴落。続いて同業のメーカー6社に次々と同じ手で脅迫を行い、各社の株価が軒並み下がると、企業の価値棄損(きそん)や信用失墜そのものが目的だったかのように、犯人の消息は途絶え、事件はいったん終息しました。

 その街頭生放送時の「笑い男」による「だったら今、あのカメラの前で真実を語ってください!」「それじゃ意味が無いんです! 瀬良野さん、あなたの口から真実を語らないと!」という「青臭い正義感」のあるせりふが印象的でした。

photo (C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊製作委員会

F: この犯人が、唯一、現実世界に姿を現したこの時、有名な青い笑い顔のマークが登場します。犯人は現場にいて電脳化していた全ての人の視覚と、自分が写っている全カメラのライブ映像と記録データで、自分の顔を、初期はリアルタイムに、後に記録された映像全てでこのマークを使って上書きするという、衝撃的な荒技をやってのけました。さらに、警察が現場で犯人を目撃した人に似顔絵を描かせると、自信たっぷりにこのマークを描くというおまけまでつけてきたのです。

 犯人は自らを「笑い男」とは名乗らなかったのですが、このマークが笑っているように見えることから「笑い男」と呼ばれるようになり、一連の事件も通称「笑い男事件」と呼ばれるようになります。事件にあわせてそのマークが大衆の中でミームとなることで、一種のブームを巻き起こした他、追随する愉快犯的な出来事や、事件そのものが解決しなかったことにより、謎が謎を呼んであまたの考察を生みました。

 ただ、その笑っているように見えるイメージとは裏腹に、マークの円周部には「I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes」(僕は耳と目を閉じ、口をつぐんだ人間になろうと考えた)といった、後ろ向きなイメージの文章がつづられていました。

 ここまでが、通称「笑い男事件」の第1幕です。

 さてこの笑い男マークに関する顛末(てんまつ)、現在の私たちの知識の延長線上で、今後、可能になるかと問われれば、条件付きですが大部分は可能と答えます。ただし、それをリアルタイムかつ咄嗟(とっさ)に行った腕前にはあぜんとしましたが。

K: え!? 可能だと思うんですが? あんな荒技が?

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