もう一度映画の世界に戻ってみよう。
これまでに挙げた作品のフォント使いは、モダニストやデザイナー好みのシンプルなものだったが、エンターテインメントとしての映画はもっと楽しく愉快なフォントとデザインで構成されてるものが多い。その典型が「ボリウッド映画」と呼ばれる、ムンバイを中心としたエリアで制作されるインド映画だ。
1995年の作品「ムトゥ 踊るマハラジャ」以降、日本でもその楽しさが一般的に知られるようになった。ボリウッド映画はポスターのアートワークを見るだけでも映画の楽しさが伝わってくる。ハリウッド映画の感覚とインド文化が融合したフォントやタイポグラフィは、映画中だけでなく、パンフレットやポスターでも追体験すると、より一層興味が深まる。
「スター・ウォーズ アート:ポスターズ」は、スター・ウォーズの映画シリーズそのものを解説した本ではなく、これもまた映画をテーマにしたポスターアート作品を収録したものである。
アートワークとしてフォントとイラストレーションを組み合わせた作品は、ハリウッドのエンターテインメント感覚がよくわかる内容となっており、単純にフォントを組んだだけでなく、アートワークに合わせてタイトルやロゴマークをデザインしているものもある。日本で公開されるハリウッド映画はタイトルも日本語化されて、オリジナルのタイトルとはかなり異なるフォントやロゴマークになっていることもあるので、原題でのフォント使いがどうなっているのかを知ることができる資料だ。
フォント探索は日本国内だけではなく、休暇や出張で訪れた旅行先でもチェックしてみると知見が深まる。2015年にビー・エヌ・エヌ新社から刊行された「街で出会った欧文書体実例集 -THE FIELD GUIDE TO TYPOGRAPHY」(Amazonへのリンク)を手にとってみよう。
翻訳書籍なので日本語フォントについての記述はないが、街角にあるサインや看板、ディスプレイ、交通機関でのサインや広告などを写真とともに紹介した本書は、実用的で実践的だ。なぜこのフォントが使われているかという意味や書体の来歴も簡単に紹介されているので、教科書のような堅苦しさはない。欧文フォントのことをもっと楽しんで知りたくなる本だ。
では日本語フォントが街中やメディアでどう使われているかという本はないのだろうか? これについてはとても良い本がある。グラフィック社の「もじ部 書体デザイナーに聞く デザインの背景・フォント選びと使い方のコツ」(Amazonへのリンク)という本だ。こちらも2015年に刊行され、デザイナーの間ではよく知られた書籍だ。
「このシーンにはこのフォントを使おう」とか「すぐに使えるフォントの使いこなしテクニック」といったようなノウハウは掲載されていないが、デザインとは直接関係のないビジネスパーソンの方やフォント初心者の方にこそぜひ読んでほしい内容となっている。即効性の高いノウハウはすぐに現場で役には立つけれども、一冊くらいは歴史や開発の背景を知っておくと、フォントの見方や使いこなしに応用力がつくことは間違いない。とくに日本語フォントについて、開発者の考え方をきちんと引き出してまとめた書籍は少ないので、そういう意味でもフォント愛好家にはオススメの一冊だ。
今回は映像や世界で使われる欧文フォントの世界を中心に巡ってみた。次回は日本語フォントのデザインやあり方、選び方について、さらに掘り下げてみよう。
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