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自動運転はいつ普及する? いま実現している技術と課題を整理するよくわかる人工知能の基礎知識(4/6 ページ)

» 2019年10月23日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

判断する

 現実世界の状況を把握したら、次は「車体をどうすべきか」を判断しなければならない。衝突軽減ブレーキのように、「前方に障害物があったらスピードを落とす」という判断は比較的単純だろう。しかし大勢の歩行者やサイクリストがいる市街地を走行する場合などは、複雑な判断が要求される。それを実現するのがAI技術だ。

 英国のスタートアップWayveは、ディープラーニング技術を活用した自動運転技術を開発している。彼らの自動運転車がインプットとして使うのは、車載カメラから得る周辺環境の画像データと、GPSから得る位置情報だけ。AIは事前に画像データを使ってトレーニングされており、周辺環境の変化に人間のドライバーがどのように対応したかを学習している。それにより、実際の人間に非常に近い判断が可能になったと同社は主張している。

 WayveのAIがどこまで実用に耐え得るものかは今後検証されていくだろう。ただし、いくら高度なAIが実用化されても、解決が難しいとされるテーマが残っている。いわゆる「トロッコ問題」だ。これにはさまざまなバージョンがあるが、共通しているのは「複数の選択肢があるが、どの選択肢を選んでも誰かが死亡してしまう場合、どのような選択をするのが正しいと思うか」を問う点である。

 線路上をトロッコが暴走していて、その進行方向に5人の人物が立っているとする。あなたが手前にあるレバーを引けば、トロッコは別の線路に進行する。ところが、その線路にも1人の人物が立っている。あなたはレバーを引くだろうか。線路に立っているのが幼い子どもだったり、あなたの家族だったりすれば判断は変わるのだろうか。

 自動運転車がトロッコ問題に直面した場合に、AIにどのような判断をさせ、その責任を誰に取らせるべきかで議論が起こっている。中には、これはあくまで思考実験で、現実ではまれなケースにすぎないと捉える人もいるようだ。

 これほど究極な状況でなくても、「急ブレーキを踏まないと目の前の歩行者をはねてしまうが、そうすると車内の乗客が頭を打ったりむち打ち症になったりする可能性がある」といった状況で判断を迫られることはあるだろう。どのような論理や倫理に基づいてAIに判断をさせるのかは、今後も議論が続いていくだろう。

支援する

 人間のドライバーがクルマを運転する際も、単に周辺環境や車体の状態だけを見て判断しているわけではない。地図やナビを見てルートを決める、渋滞情報を聞いて迂回(うかい)路を探す、過去に得た情報や経験から事故が多発する道路で減速するなど、さまざまな情報を基に行動している。それは自動運転車も同様だ。

 周辺環境の認識では、車体に積まれた各種センサーから得る情報だけでなく、地図情報が大きな役割を果たしている。そのため自動運転車専用の地図情報の整備が進められている。

 日本では、16年設立のダイナミックマップ基盤社が「高精度3次元地図データ」を提供。従来よりもはるかに高い精度でさまざまな建物や設備、障害物などをマッピングし、3Dデータにして整備している。同社は国内の主要自動車メーカーや測量会社などが共同出資して誕生した企業。19年2月に米国で高精度3次元道路地図を開発していたUshr社を買収し、事業とデータの拡充を進めている。

 この高精度3次元地図に「時間とともに変化する動的データ」を付加したものが、ダイナミックマップと呼ばれるデータだ。例えば渋滞情報や気象情報、交通規制情報など自動車の走行に関わるさまざまな情報が含まれている。自動運転車がこうした情報と、LiDARなどで取得した情報を組み合わせることで、より良い状況把握と判断が可能になる。

 また、信号機や道路、ガードレールなどをインテリジェント化し、それらが自動車と通信することで走行を支援しようというITS(高度道路交通システム)の検討と実験も進んでいる。「スマートシティ」のように、街全体が情報のやり取りと処理をするようになれば、自動運転車にとってさらに有利な環境が生まれるだろう。その意味で「支援する」という領域は、今後さらに発展すると考えられる。

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