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自動運転はいつ普及する? いま実現している技術と課題を整理するよくわかる人工知能の基礎知識(6/6 ページ)

» 2019年10月23日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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 米ボストンで行われた自動運転の実証実験では、冬になると道路に集まるカモメの群れが問題になった。実験を行ったnuTonomy社のカール・アイアグネマCEOは、ボストングローブ紙の取材に対し、「鳥が1羽の場合には、十分に小さいのでクルマはそれを無視できると判断できます。しかし群れでいる場合には、大きな物体のように見えてしまうので、鳥だと認識できるようクルマを訓練しなければいけませんでした」と説明している。そしてカモメをカモメとして認識できるようにした上で、鳥が飛び去るまで減速しながら接近し、その後通常の運転に戻るという行動をAIが取るように設定したそうである。

 他にも人間が無意識に対応できるような物事や現象が、自動運転の落とし穴になることが考えられる。私たちがイメージする自動運転が技術的に実用化されるようになっても、そうした落とし穴が生み出す限定領域という制約によって、自動運転車の普及は段階的に進むにとどまりそうだ。

 ドイツ人のゴットリープ・ダイムラーがガソリン車を開発したのは1885年で、エアバッグ技術がクライスラー車に搭載されたのは1967年のことだ。その他多くの安全技術が実用化され、法律で搭載が義務付けられるようになったのは、20世紀後半だ。つまり自動車が発明され、普及するようになってから100年を経て、ようやく現代の「安全な」自動車が実現されたといえる。

 それを考えると、自動運転も「絶対に安全な技術」という評価が確立される前に、市場へ普及していくだろう。そして、現実世界でさまざまな事件や事故が生まれた後に、必要な技術や法律の整備が進んでいくはずだ。

 その過程では、自動運転に対する世論や消費者感情が議論の道筋を大きく左右すると考えられる。先ほどの鳥の群れの例などがクローズアップされ、「対応できるまで自動運転車は走らせない」と規制をかける動きが現れるかもしれない。

 自動運転車がAI技術をフル活用した存在である以上、「私たちとAIの関係はどうあるべきか」という議論にもつながる。自動車は社会的にも経済的にも存在感を放つ道具なので、社会におけるAIのあり方を大きく規定するに違いない。AIを物理的な空間の中に受け入れた社会はどのような変貌を遂げるのか、それを最もはっきりとした形で示してくれるのが、自動運転の世界だろう。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。


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