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自動運転はいつ普及する? いま実現している技術と課題を整理するよくわかる人工知能の基礎知識(5/6 ページ)

» 2019年10月23日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

「自動運転」はいつ普及するのか?

 官民ITS構想・ロードマップ2019では、レベル4の自動運転を25年頃に実現することを目指している。レベル4であれば、人間のドライバーが緊急時に備える必要はなく、「限定領域において」システムが全ての運転を担ってくれる。ドライバーの注意が必要なレベル3は、消費者にとってもあまり魅力的ではないため、これを飛ばしてレベル4の実現を目指す自動車メーカーもいる。

 ただこの「限定領域」(ODD:Operational Design Domain)も厄介な概念だ。アメリカ自動車技術会(SAE)の定義では、ODDとは「ある自動運転システム又はその機能が作動するように設計されている特定の条件」を指す。要は「この自動車は自動運転ができますけど、〇〇という条件下だけですよ」という制約があるのだ。

 レベル4の自動運転車が購入できるようになっても、それが「晴れた昼間のみ」でしか機能しないならあまり意味はない。「雪の積もった道路は走れません」と言われれば、雪国では手を出せないだろう。ODDは自動運転のレベルと共に、自動運転車の「普及」を考える上で重要な概念となる。

 とはいえ、限定領域のない自動運転車を実現するのは至難の業だ。人間でさえ「あらゆる環境で適切な運転をできる自信がある」という人は多くないだろう。

 例えば東南アジア諸国では、無数のバイクが道路を縦横無尽に走り回っている。整備された高速道路を走るのと、こうした国々の一般道を走るのとでは、求められる運転の質が全く異なる。実際にアジアの途上国では、厳しい道路事情や交通事情への対応から、自動運転の普及が遅れるだろうという予測も多い。

 他にも限定領域を生み出す要素は数多く存在する。面白いのは「生物」という条件だ。例えば次のような状況であなたがクルマを運転していたら、どのような行動を取るだろうか。

 目の前に現れた突然の鳥の群れ。急ブレーキをかけないと鳥をひいてしまうが、後続車がいれば自分が追突されてしまう。残酷な考え方だが、鳥を数羽ひいたぐらいなら、追突されるよりも自分とクルマに対するダメージは少なくなる。鳥もクルマの接近に気づいて逃げてくれるだろうから、何十羽もひいてしまうということはないはずだ。多くのドライバーはそのように考え、さほど減速せずに突っ込んでいくのではないだろうか。

 しかし、これが自動運転車だったらどうなるだろうか。そして目の前に現れたのが、トキのような絶滅危惧種だったら? いずれにしても難しい判断が迫られる。

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