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IIJの老舗クラウド「GIO」は、国内市場で存在価値を示せるか? AWSやAzureとの戦い方を問う国内クラウドベンダーの生存戦略(2/2 ページ)

» 2020年02月20日 07時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]
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「クラウドリフト」案件ではネットワークサービスのメリットも生かせる

 IIJの顧客層を細かくみると、メガクラウドの利用を望む企業は、クラウドのメリットを最大限に生かす「クラウドシフト」のニーズを持つ例が多いという。アプリケーションをマイクロサービス化したり、サーバレス技術などでモダンなアーキテクチャへと作り替えたりすることで、業務を変革しようとしており、AWSのサーバレスサービス「AWS Lambda」が特に人気が高いとしている。

 一方、既存のITシステムをそのままパブリッククラウド環境に移行する「クラウドリフト」を望む企業も存在する。染谷氏は「大企業であっても、(IT担当者の退職などによって)既存のITシステムの中身を誰も知らない場合があります。そのため、なるべく既存のシステムに手を入れず、そのままクラウド化したいというニーズが生じています」と説明する。

 既存環境をそのままクラウド化する際は、メガクラウドではなく、GIOのVMwareベースのプライベートクラウド環境のほうが向いている場合があるため、IIJにもチャンスが巡ってくるというわけだ。

 染谷氏によると、顧客企業のクラウド移行を「リフト」で進める際は、システム環境が社内LANから外部のクラウド上に出るため、既存のWAN(Wide Area Network)の構成を見直すことも多いという。ネットワークに強いIIJは、クラウド移行の案件で、WANの刷新などのネットワーク事業での収益も見込めるのだ。

photo IIJのネットワークサービスの公式サイト。多様なサービスを提供している

 IIJのネットワークサービスでは、顧客企業に閉域網を使ったハイブリッド/マルチクラウド環境を提供できる。モバイル接続サービスを提供した場合、顧客企業の社員は、閉域網によってインターネットを経由せずに、自宅や外出先からパブリッククラウドなどの外部サービスにアクセスできる。

 さらにIIJは、ネットワーク事業でも手厚いサポートを提供している。同社の顧客企業は、モバイルでの安全なアクセス経路を確保するために、自社のLANにVPNで接続し、そこから社内システムやパブリッククラウドにアクセスする――という方法を採っている例が多い。だがこの構成は通常、外部からのアクセスが増えれば、VPNのゲートウェイに負荷が集中し、レスポンスが低下するなどの問題が出る。パブリッククラウドの利用が集中する始業時間帯などにインターネット回線が混み合い、レスポンスが遅くなる問題もある。IIJは、こうした課題解決の支援も行い、満足度の向上につなげている。

 これらのメリットを生かしてクラウド事業を拡大するため、IIJは現在、1万社ほどあるネットワークサービスの既存顧客にフォーカスし、クラウド移行を支援している。新規顧客を獲得するよりも安定的な収益が見込めるため、「より深くIIJのサービスを使ってもらえるように注力していきます」と染谷氏はいう。

3つの強みを生かせるか

 IIJの強みをまとめると、(1)自社の製品にこだわらず、メガクラウドも含めたハイブリッド/マルチクラウド環境を提供できる点、(2)問い合わせ窓口を一元化し、顧客企業の負担を低減できる点、(3)すでに実績のあるネットワークサービスを生かし、顧客のきめ細かな要望に応えられる点――の3点になる。

 こうした武器があれば、「オンプレミスのシステムをしっかりと守りつつ、新たにクラウドを活用したい」「クラウドを活用したいが、AWSやAzureを使いこなす人材を育てられない」という、企業のニーズや課題に対応できる。国内市場にはベンダーロックインを嫌う企業も一定数存在するため、これからハイブリッド/マルチクラウドの時代が本格的に到来するのであれば、IIJが国内市場で存在価値を示せる可能性は十分にありそうだ。

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