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最終回:RISC-Vエコシステムの発展 Arm、NVIDIAとの関係はどうなるのか?RISCの生い立ちからRISC-Vまでの遠い道のり(3/3 ページ)

» 2020年10月12日 10時58分 公開
[大原雄介ITmedia]
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Arm、NVIDIAが後押しするRISC-V人気

 2018年も同じように活発にワークショップや様々な講演を開催しつつ、さらにメンバー企業を募るといった活動を行っていたが、2018年11月にLinux Foundationとの提携を発表。その後、RISC-Vエコシステムに加盟するベンダーや研究機関のうち、米国外の比率が急激に増えたこと、それと米国に籍を置くことのリスク(この話はここで以前触れた)軽減のため、組織名をRISC-V Internationalに変更し、本拠地もスイスに移している。ただこうした動きがRISC-Vの普及の妨げになるといったこともなく、RISC-Vに対する人気は高まる一方である。

 実はこのRISC-V人気を後押ししてくれたのは、皮肉にもRISC-Vの最大の競合であるArmであった。もともと2017年にArmがソフトバンクに買収された時点で、Armの中立性に疑問を持った従来からのArmの顧客は、少なからずRISC-Vへの関心を高めていった。もちろんいきなり切り替えというのは不可能だし、意味もない。既にArmのCPU IPベースで自身の製品開発を進めているユーザーが、いきなりCPUを交換できる訳もないし、したところでコスト削減にもならない。ましてや、急激に充実し始めたとはいえ、まだArmとのエコシステムの差は大きい。

 例えば最近はAndroidを使った組み込み機器が増えているが、RISC-VはまだAndroidの正式対応アーキテクチャに入っていない(非公式の移植も、広く知られたものは存在しない。筆者が気が付いてないだけでどこかにはあるかもしれないが)し、Embedded Linuxの対応も十分とはいえない。ミドルウェアの類も、移植はこれからだろう。とはいえ、数年後の切り替えに備えて、情報収集とか簡単な評価に手を付け始めた企業は少なからずあった。

 ところがここに来て、NVIDIAによるArmの買収である。Armの中立性は保証するとはいわれているものの、それこそNVIDIAと競合するようなマーケットに自社製品を投入していたベンダー(自動車関連に結構多い)にとって、Armを使い続けるか否かは死活問題に昇格したことになる。こうしたベンダーが、現在真剣にRISC-Vの評価をスタートしており、おそらく1〜2年でその評価結果が表に出てくると思われる。

 これに絡んで、今年9月にImagination TechnologyがRISC-Vコアを利用したコンピュータアーキテクチャの学習コースを開催したというのはなかなかに興味深い動きである。かつて自社で保有していたMIPSを切り捨てたということよりも、過去も現在もImaginationのコアはArmのCPU IPと組み合わせて使われることが多いのに、RISC-Vに食指を伸ばしているというのは、おそらく調査・検討の一環であろうと思われる。

 今後はエコシステムパートナーも、ArmとRISC-Vの両対応を行うところが次第に増えてくるだろう。既にIARとかSeggerなどは対応製品を両プラットフォームに提供しているし、中国GigaDeviceのように両アーキテクチャのMCUを並べて出荷しているところもある。日本でもルネサスエレクトロニクスがASIC/ASSP向けにAndes Technologyの32bit RISC-Vコアを採用することを発表したが、こうした動きは今後も増えてくるだろう。

 もっとも、RISC-VがArmと完全に対立するような立場になるまでには、まだ相当時間がかかるだろう。先ほどもちょっと触れたが、ソフトウェア環境一つとってもまだRISC-VはArmの足元にも及ばない。個人的な興味の範囲でいえば、ArmでいうところのCMSISにあたるハードウェア抽象化層の規定ができ、これをMCUベンダーが採用してくれるようにならない限り、ミドルウェアなどの移行はそうそう進まないだろうし、それが実現するには1年や2年では済まないだろう。早くて5年、下手をすると10年というのが筆者の見立てである。

 あるいはサーバ分野においても、Armがほぼ10年近くかけて築いたサーバ向けインフラをRISC-Vが同じように追いかけるとなると、やはり10年近くかかるだろう。もっと時間を要しそうなのがスマートフォンのマーケットで、ここにRISC-Vが入る合理的な理由が今のところ全く思いつかない。多分スマートフォンには最後までRISC-Vは入らず、ただスマートフォンに代わる「何か」が出現して、その「何か」をRISC-Vがキャッチアップできれば、ここでArmと並ぶ立場になるかもしれない。

 もちろんArmがこうした動きを指をくわえて見ているはずもないので、潰しに掛かるのはビジネス上の必然なのだが、問題はNVIDIAもRISC-VのStrategic Membersの一員であり、取締役会にも参加しているということだ。一体NVIDIAはArmとRISC-Vをどう扱っていくつもりなのか、この辺りが現状見えないところがRISC-Vの将来にちょっとだけ影を落としている形だ。ただArmの方にはかなりでかい影が落ちている感もあるので、その意味ではまだRISC-Vの方が前向きという気もしなくもない。

 ということで9回の長きにわたってIBM 801からRISC-Vまでの長い道のりをご紹介させていただいた。こんなもんでよかったんですかね?>松尾さん(編注:「もちろんです」)

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