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改めて比較する、ぬるいiPhone 12とドキドキしないPixel 5(3/3 ページ)

» 2020年11月17日 07時35分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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すばらしく「ちょうどいい」のにドキドキしないPixelのジレンマ

 さて、この結果から何がいえるのか?

 「Pixel 5は性能が低い」という話をしたいわけではない。むしろ「ベンチマークではこれだけの差があるのに、おそらく多くの人はそれを気にすることはないだろう」という点、そして、Googleはそれを分かって、あえてPixel 5を「去年のモデルよりも劣る性能にした」ということだ。

 実際、カメラ性能にしても多くのスマートフォン上の作業にしても、Pixel 5は十分な体験を与えてくれる。デジタルズームにしろポートレートモードでのソフト処理にしろ、いまだにiPhoneよりもPixelの方が性能が高い。パフォーマンスは必要だが、それは別に、業界最高性能でないと実現できないものばかりではない。

 5Gを搭載して低価格な製品を作り、普及させることがPixel 5の目的だ。Googleはそこで、必要な機能を実現できるプロセッサが低価格に手に入るなら、それでも十分、という判断を下したことになる。

 おそらくGoogleは、「その年に最も良い、開発にも向いたAndroidのリファレンス端末」としてのPixelでなく、「5Gを普及させるためのリファレンス端末」としてのPixelを優先にしたのだろう。そういう意味では、よりマスに向けた製品を狙ったのだろうと思う。

 だが、である。

 Pixel 5は、触っていてびっくりするくらい「普通」でドキドキしない。Pixel 4のときよりもさらに普通すぎる。

 スマートフォンは「モノ」だ。必要に迫られて、好きでも何でもないが買う、という人が多くなっているものではあるが、買った時に「自分は新しいものを買った」という喜びやときめきが欲しいもののはず。世の中でヒットするものは、日常的で普通の存在であっても、満足感のあるなにかを備えている。筆者の目から見ると、今回のPixel 5にはそれが決定的に欠けている。

 ハイエンドでない5G端末はどんどん増える。それらと比較した時、「Pixel」というブランドに特別なものを感じる人が、この端末でいいと思うだろうか? その時に「トップクラスの性能である」ことが担保されているのがPixelの良さではなかったか。一方、Pixelに特別なものを感じない人には、むしろ「目立つところがない端末」と感じられるのではないか。

 そういう意味で、Pixel 5は「とてもよくまとまった端末」なのにあまり魅力がない。

「これでちょうどいい」の増大はスマートフォンに何をもたらすのか

 では、iPhone 12が新たな魅力にあふれたスマートフォンか、というとそうでもない。結局機能としては、速くなって写真がきれいになったくらいなのだ。2つ折りのような分かりやすい新基軸を用意しているわけではない。「Pro」シリーズにはLiDARが載っていて、さらに「Pro Max」にはハイエンドなカメラが搭載されているが、それにしても「分かっている人」向けのもの。以前とは異なり、誰もがハイエンドのiPhoneを選ぶ時代ではない。

 Appleもその辺は百も承知だろう。

 ここでデザインを変えたのは、5Gで大幅に設計を変える必要があったからだけではあるまい。デザインを変えることで、「スマートフォンを買い換える必要性を感じていない」人にも、そろそろ新モデルに目を向けてもらいたい。その意味でもデザインリニューアルをかけておく必要があったのだろう。

 周辺機器という面では、磁石を使った無線充電を実現する「MagSafe」も大きい。ここも新しい仕組みになるので、ケースや周辺機器などに新しい市場が生まれる。「また出費があるのか」という話でもあるのだが、トータルでの新しさの演出、という意味ではプラスだろう。

 多くの人が「iPhone 12」や「iPhone 12 mini」を買う前提で、他社に比べて全体の単価は高いとはいえ、5Gに向けてiPhoneの購買を促すにはプラスの商品構成である。

 とはいうものの、もちろん、消費者がAppleの思惑につきあう必要は全くない。

 問題はやはり「高い」ということ。Androidの低価格な5Gモデルや、よりパワフルなハイエンドモデルと比較した場合、カメラ以外の部分では、iPhoneに強い優位性はない。iPhoneは単一モデルとしては世界で最もたくさん売れるスマートフォンであり、Appleも、他社ほどにはバリエーションを作らない。数十万台どころか数百万台を秋から年末にかけて市場に出せないといけない。だからこそ、ハイエンドスマートフォンであるにもかかわらず、市場にある全てのパーツが使えるわけではない。最終的には数千万台分の部材を調達可能でないと採用できないのだ。

 その事情ゆえに、Androidスマートフォンの中でも、一部のハイエンド製品に比べると「ぬるい」スペック構成ではある。他のハイエンドでは当たり前になった「120Hz駆動ディスプレイ」が採用されていないのも、2つ折りの採用が難しいのも、おそらくはそのためだ。

 ではAppleは、いつまで「全てを数千万台作るつもりで調達する」まま進むのだろうか? それではだめ、という時代が来るのか、それともむしろ、より「超ハイエンドは特殊な人々のもの」になっていくのか。

 果たして、そうした部分がどう影響するのか? デザインリニューアル+5Gの効果は、価格や景気の状況を超えることができるのだろうか?

 Appleのスマートフォン事業を占うには、そうした部分が鍵になってきそうだ。

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