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都会にいては分からない、地方銀行のオンラインバンキングに嘆息した話(2/2 ページ)

» 2020年12月24日 06時35分 公開
[小寺信良ITmedia]
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紙・ハンコ・紙・ハンコ

 その支店は、今のマンションに引っ越す前のアパート暮らしだった時、近くにあった支店で、車で20分ぐらいかかるところにある。支店の規模としてはかなり小さく、支店というよりは出張所クラスである。

 対応した女性は電話をくれた人ではなかったが、話は通っているようですぐに書類記入を案内された。で、オンラインバンク停止用の書類に住所氏名を記入して銀行印を押し、免許証で本人確認をする。ただこっちはマスクをしたままなので、証明書写真と照合して本人確認するわけではない。結局、形式的なものなのだ。

 ところが銀行に引っ越し先の住所変更をしてなかったので、先に住所変更をすることになった。また書類に住所氏名を書くわけだが、住所の一部を書き間違えてしまった。新住所は、マンション名まで含めてメチャメチャ長いので、時々書き間違うのである。

 間違えたところに訂正印を押すわけだが、その訂正印も銀行印だという。銀行印は認印よりデカいので、それを押してしまうと訂正して正しく書き直したところも印影でゴチャゴチャして見えなくなってしまうのだが、構わないらしい。見えなくなるよりも、訂正印が押してあることの方が重要なのだ。これも本当に、形式的なものなのである。

 とにかく人に手間を取らせました、というのが、作業の確実性を担保する仕組みになってしまっている。

 いやそれにしても、機種変をするときにバックアップからは書き戻せず、ユーザーの手動による引っ越し手続きが毎回必要なシステムというのは、これから大変になるだろう。総務省の掛け声で携帯料金が下がり、スマートフォンの単価も下がっていくだけでなく、旧端末を下取りして毎年の買い換えを前提とした料金プランまで提示される世の中である。

 毎年機種変するときに、他にもたくさん移行手続きが発生する中、毎日使うものでもないオンラインバンキングの移行手続きも忘れずにやれる人は少ないんじゃないかと思う。従って、このようなオンラインバンキングの無効化手続きは、これから山のように発生するはずである。

 支店で対応してくれた女性は本当にめんどくさそうだったが、それはそうだろう。こんな手続きしても、手数料は発生しないのである。そんでその用紙をオンラインセンターにFAXする。センターは定期的にFAXを確認し、その紙を見ながら解除作業を行う。支店は解除用紙を「小寺信良様」と書いたファイルに綴(つづ)り、保管しておくことになる。銀行印まで押したものは「原本」であり、簡単には捨てられないからである。銀行の各所で、タダ働き業務が大量に増えることになる。

 次は旧機種がある時にきちんとトークンの乗り換え作業しましょう、という話になるのだろうが、多分次の機種変の時も忘れると思う。そしてまた、オンラインバンクのリセットのためにハンコと免許証を持って、銀行にタダ働きさせに行くのだ。

 これ、毎回手続きを忘れるユーザーがアホなのか、そういうシステムをいつまでも使っている銀行がアホなのか、という話になるのではないだろうか。ユーザーのアホさは治療や改善が期待できないので、システム側を直すしかない。

 実は筆者のメインバンクは三井住友銀行なのだが、ここのオンラインバンキングは複数端末からのログインを前提で作られているので、機種変したからといって入れなくなるような作りにはなってない。そもそも紙の通帳もなくとっくに電子化が完了しているので、銀行印もない。宮崎には支店がないのだが、これまで宮崎に2年いて、銀行業務で困ったことはない。

photo 三井住友銀行のスマートフォンアプリ

 地方には都市銀行の支店がほとんどないので、地方には地方銀行が必要ではあるのだが、都市銀行のオンライン化具合と比べると、結構道のりは遠いように見える。このご時世、来店を積極的に促して営業する時代でもない。訪問営業などはもっと無理だ。

 地方銀行にとって、この業務システムの遅れは致命傷になるのではないか、と考えさせられる出来事であった。

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