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もがくオーディオメーカー コンシューマーオーディオはどこへ行くのか? ゼンハイザー、オンキヨーの身売りで考える小寺信良のIT大作戦(4/4 ページ)

» 2021年05月25日 12時56分 公開
[小寺信良ITmedia]
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 実態として、IT企業やベンチャーがドライバなどの基幹部品の製造ができるわけではない。その裏方として滑り込むという手はあっただろう。

 その点ではフォスター電機のようなやり方もある。AppleのiPodやiPhoneが出たときに、「付属イヤフォンの音質もいい、さすがはApple」という声が上がったが、あれはAppleが作ったわけではなく、フォスター電機製である。

 音響製品OEMとして裏方に徹するとともに、スピーカーユニットは「フォステクス」ブランドで一般販売もしている。さらにイヤフォン・ヘッドフォン用ドライバも、2018年から外販をスタートしている。

photo AppleなどへのOEM供給もこなしつつ1973年から続く独自ブランドも

 オンキヨーも、テレビメーカー向けにスピーカー提供と音響設計に活路を見出そうとした。東芝、シャープ、台湾Compal、トルコVestel、中国TCLといったテレビメーカーと協業を行ってきたが、テレビは思いのほか低価格化が早く進行した。ビジネスとしてはなかなか厳しかっただろう。

 今にして思えば、多くのオーディオメーカーにしてみれば、高付加価値であったハイレゾも「思ってたのと違う」展開だったのだと思う。これまでのオーディオ業界ように、「ハイレゾのメディア」が登場し、従来型のコンポーネント製品が売れるという道筋は生まれなかった。

 ソースのハイレゾ化は、ストリーミングが主導権を握った。3Dオーディオも同じである。ITの世界に足場がなければ、自社ブランドでの製品展開は難しくなった。まさか自分たちがこんな形でハイレゾから締め出させる結果となるとは、思ってもみなかっただろう。

 さらにさかのぼれば20世紀末から2000年代初頭、MP3プレーヤーやiPodが人気沸騰したときに、ベンチャーの台頭や小型化、メディアレス、IT化といった兆候は見えていた。

 しかしそのときオーディオ業界はそれを本質ではないと見て、それらのユーザーに「オーディオファン」の種を蒔(ま)くのを怠った。この失策が20年たって、消費行動を抜本から変えていった。

 子どものころ、「ステレオ」が家になかったという20代〜30代は多い。多感な青少年期にいい音を聴いて感動した経験がないのに、大人になったからといってオーディオに金を出すようにはならないだろう。

 スピーカーやイヤフォンはいまだアナログの部分を多く残しており、メーカーにとっては技術者の知見と製造ノウハウに価値がある。求められる製品の姿かたちは変わったが、オーディオ需要が減ったわけではない。

 ただ、少なくとも小回りがきく商品開発をしていかないと、現代のニーズに追従していくのは難しい。オーディオ製品開発のスピードは、IT製品開発と同じスピードになったのだ。3年かけていいものを作る世界は大事だが、それではご飯が食べられなくなったのも事実だ。

 IT化か、裏方化か。はたまたゼンハイザーのようにプロ向けか。日本のオーディオメーカーの生き残る道は険しい。

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