実際に使ってみると、確かに本来の自分の技術では絶対に描けないようなイラストができる。水のペンで湖を描くと、すでに描いた雲や山の反射まで自動で描きこまれるなど、素人目線では細部の再現度も高い。ペンタブを持っておらず、美術2の記者でも、ポスターやカレンダーに載っていそうな風景画や写真のようなイラストを数分から数十分で作成できる。
ただ、記者のような絵が描けない人間でもプロ並みのものが作れるか、何も考えずにクオリティーの高いイラストが作れるかといえば、そうとは限らない。山や雲を適当に並べただけでは、風景というよりは模様が並んだだけのよく分からない画像になる。
より見栄えのいいイラストを作ろうと思うと「山のてっぺんだけに森があるのは変だな」「この岩の形は違和感がある」といった感覚が必要だ。「きれいな直線を引ける」「透明感のある塗りができる」といったスキルは必要ない一方で、どこにどんな物体を置けば現実の風景らしくなるかなど、観察力や配置のセンスを求められると感じた。
これは技術的な背景を考えれば当然とも思える。同ツールに使われているGauGANのベースは「GAN」(敵対的生成ネットワーク)という画像生成アルゴリズムで、「より本物らしい画像を作るAI」を「本物か偽物か見抜くAI」が評価することで精度を上げていくものだ。ベタ塗りとはいえ、現実的な風景にありそうなレイアウトをしないことにはAIも変換に困るのかもしれない。
これらはイラストを描く上でも重要なスキルと思われるので、絵が上手な人がNVIDIA Canvasを使えば、恐らくは記者よりクオリティーの高い作品が出来上がるだろう。
とはいえ、記者のように絵が下手な人でもそれっぽい絵が描けるのは強みだ。Photoshopでぼかしや光源を足せば、もう少し雰囲気も出るだろう。プロに画像素材の作成を依頼するとき、絵が描けない人がNVIDIA Canvasでなんとなくのイメージを作成して共有する、といった使い方もできるかもしれない。
NVIDIAは今後、ユーザーが自分で撮影した写真などをイラスト作りに活用できる機能も追加するという。ただ、外部の素材を取り込めたところで、素人とプロが有するセンスの差まで埋まるかと言われれば微妙だ。どちらかといえば、もともとイラストを作れる人が、より表現の幅を広げるための機能とも取れる。
NVIDIAがこれからどんな方向性でツールをアップデートしていくかは不明だが、今後追加する機能が同じように表現の幅を広げるものであれば、素人が使いこなすのは難しくなっていくだろう。その場合、NVIDIA Canvasは「下手な人でもプロ並みのイラストを作れるツール」ではなく「プロが作業を簡略化するためのツール」という立ち位置になっていくのではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR