ITmedia NEWS > 企業・業界動向 >

電子・IT産業で存在感が出せない日本 コロナ特需落ち着く2022年に伸びる分野、細る分野小寺信良のIT大作戦(4/4 ページ)

» 2021年12月20日 16時38分 公開
[小寺信良ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

次の成長戦略は「グリーン×デジタル」

 JEITAの記者会見は残り半分の時間を使って、次のデジタル化の地殻変動として、「カーボンニュートラル」を挙げた。この実現に向けて貢献できるデジタル分野として、EV、自動運転、ITリモート、エネルギーマネジメント、スマート農林業、社会インフラモニタリングの5つと見込んだ。

 先日、トヨタの豊田章男社長が、「カーボンニュートラルの達成には各国のエネルギー事情が大きな影響を及ぼしている」と指摘したばかりである。つまりクルマをEVにしたからといって、発電が再生可能エネルギーでなければ、貢献にも限度があるという話である。JEITAの資料も、創電は別の話として、それ以外のデジタル領域で貢献できる分野を分析している。

photo デジタル5分野のCO2削減ポテンシャル

 今後は壁が高いとされてきた産業分野のデジタル化も不可欠になり、全体でのエネルギー効率化や、サプライチェーン上のCO2の見える化が求められる。

 JEITAの報告書では、工場設備からの大容量のエネルギーデータをリアルタイムに把握・制御するために、超高速、超低遅延、同時他接続などメリットがあるローカル5Gを整備する必要があると説く。すなわち通信分野は、今後も大きな設備投資が続くというシナリオにつながるとしている。

 JEITAとしては、14年ごろから地方活性化の取り組みに積極的に参画しているが、今後も地方におけるデジタル化がキーになると捉えている。工場などはほとんどが地方にあり、サプライチェーンもそこへの接続が重要になる。

 ただ地方在住の筆者からすると、これは新たなデジタル格差の火種となりうる話でもある。

 地方にある大手企業の工場はローカル5Gを敷いてあらゆるもののデジタル化、ネットワーク化が進む一方で、地元中小企業や役所はDXへ乗り切れない。大企業は会社全体でカーボンニュートラルへ向けて取り組むことは大義名分があるが、地方中小企業や役所はそもそも大工場に比べればCO2排出量などものの数に入らず、それを目的にコストをかけてDXに取り組むモチベーションが生まれにくい。

 この話は、2011年ごろに起こった電子教科書推進議論をほうふつとさせる。世界が教科書のデジタル化に舵を切る中、現場の先生たちからは、「これまで紙でうまくやって成果も上げているのに、なぜやり方を変えなければならないのか」という反発が上がった。結果はご承知の通り、デジタル教科書と1人1台のデジタル機器が全国の小中学生に配布されるまで、10年かかった。

 大企業の地方工場は、社内なら全国どこでもバンバン情報共有できる一方で、地元企業や役所との打ち合わせには紙の資料を用意しなければならない世界が、あと10年続くことになりかねない。カーボンニュートラル旗印のDXは、そうした脆さがある。

 EV・自動運転、ITリモート、エネルギーマネジメント、スマート農林業、社会インフラモニタリングというデジタル5分野の世界的市場規模は、今後10年で14.4%増と予測されている。産業界として次のメシのタネはここにあるわけだが、例えば伸びしろが一番大きい「ITリモート」の内訳は、「生活様式・行動変容によるエネルギー消費量の削減、自動化・省力化・効率化・ロボットによる働き方改革」となっている。

photo デジタル5分野の世界需要額見通し

 これは地域活性化と相性が悪い。なぜならば、地方にある工場がそうなれば、新しい雇用が生まれないということを意味するからである。

 地方の活性化に必要なのは、地方に住んでくれる人の増加だ。森に囲まれた無人の巨大工場から続々とドローンで製品が都会へ向けて搬出されてきても、そこで暮らす人にはメリットがないのである。

 加えて、実際その5分野に食い込める足場が日本企業にあるのか、という懸念がある。

 いま一度「世界生産額と日系企業シェア」のグラフを眺めてみると、今のところ明るい材料があるようには見えない。新たな市場に明るい見通しを持つ半面、22年の予測を厳しめに見ているというのは、今の電子産業界の方向性では厳しいということだろう。そうした技術が研究・開発済みというのなら安心もできようが、未来を見通していたのに期待の分野でシェアを取れないということも十分に考えられる。

 実際、そちらに向かって日本企業がどういう手を打つのか、あるいは打つ手がないのか、注意深く見ていきたい。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.