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カセットからフロッピー、そしてハードディスクを制御するSASI、SCSI、IDE、ATA、SATA――さまよえるストレージ用インタフェース標準を語る“PC”あるいは“Personal Computer”と呼ばれるもの、その変遷を辿る(5/5 ページ)

» 2022年01月12日 13時06分 公開
[大原雄介ITmedia]
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CD-ROMドライブの普及とATAPI規格

 またこのIDEをHDDだけでなくCD-ROMドライブでも使えるようにしたい、というニーズが寄せられた結果として、1998年のANSI INCITS 317-1998(ATA-4)にはATAPI(AT Attachment with Packet Interface Extension)という規格が追加され、CD-ROMドライブの普及に一役買う事になる(それ以前はSCSIか独自インタフェースを利用していた。なぜかこの独自インタフェースはサウンドカードに実装されており、サウンドカード+CD-ROMドライブというパッケージが広く売られていた時代もあった)。

 このINCITS 317-1998にはUltraDMAという、より高速な転送オプションも追加された。もともとATA-1では8.33MB/sで、転送方式はPIOのみ。ATA-2では16.67MB/secで、Multi Word DMAが追加されたが、HDDの高速化(主な理由はプラッターの記録密度向上による読み取り性能の高速化)に追い付かなくなりつつあった。そこでDMA転送の単位をより大きくして最高33.3Mbpsまで高速化したUltra DMAがここで追加されている。

 その後も2000年には転送速度を66.6MB/secに引き上げたATA/ATAPI-5(ANSI INCITS 340-2000)が2000年に、100MB/secとしたATA/ATAPI-6(ANSI INCITS 361-2002)が2002年に、133.3MB/secまで引き上げたATA/ATAPI-7(ANSI INCITS 397-2005)が2005年にそれぞれ標準化されている。

Intel、標準化に乗り出し、Serial ATAが世に出る

 面白いのは、ここまでの標準化が全て、業界団体に拠らない話し合いで進められていることだ。

 最終的な標準化はANSIで行うが、それ以前の段階だとまずどこかのメーカーが次の拡張規格を考え、とりあえずパートナーを探して水面下でプロトタイプを作り、うまくいきそうとなったら他のメーカーに「こんなんやってますぜ」と発表、それを受けて各社がその仕様を検討の結果、「んじゃANSIで標準化作業しましょう」みたいな形になっており、ANSIに行く手前で打ち合わせる場所(PCI-SIGとかUSB-IFに当たる団体)が一切存在しなかったことだ。

 もちろんIDEというかATAはもうPCでの利用を前提にした規格だから、ある程度検討が進むとPCメーカーも巻き込むことになるが、新規規格策定のプロトコルに相当するものがIDEではついに生まれなかった、と考えてもいい。

 多分こうした動きに危機感を覚えたというか、「いやもうちょっと何とかしようぜ」と思ったのは、またしてもIntelだった。

 もともとIDEはパラレルバスを使った伝送方式で、PCの中で引っ張りまわすのはいろいろ大変だった。特にATA-4のUltraATA/33(転送速度33.3MB/sec)までは通常の40pinフラットケーブルで何とかなったが、次のUltraATA/66(同66.7MB/sec)以降は80pinケーブル(信号線の間に、GNDに接地されるケーブルを挟み込むことでノイズやクロストークの影響を軽減した)が必要になり、UltraATA/100(同100MB/sec)では、80pinケーブルの外側をシールドで覆ったものまで登場するようになった。次のUltraATA/133はMaxtorが提唱したが、Intelは自社のチップセットでこれをサポートしないと決定しており、HDDメーカー側もMaxtor以外は対応製品がほとんどないなど、足並みもそろわなくなってきた。

 これに先立ち、Intelは痛い目にあいつつも、高速シリアル技術をRambusから入手し、さまざまなインタフェースをシリアル化しようと目論んでいた時期である。

 IDEはこのシリアル化に適したターゲットであり、それもあって2000年12月に「Serial ATA Draft Specification 1.0」を発表する。ただしメモリと異なり、Intelは標準化団体であるSerial ATA Working Groupを設立し、仕様をここに提供した(その後組織名はSATA-IO:Serial ATA International Organizationに改称されている)。

 SATA-IOはPCI-SIGやUSB-IF同様にオープンな組織として構成され、以後SATA 1.0(転送速度1.5Gbps)、2.0(同3Gbps)、3.0(同6Gbps)と進化していく。現時点での最新版の仕様は2021年3月にリリースされたSerial ATA Reveision 3.5aだが、速度そのものは6Gbpsで打ち止めである。この辺りの事情はいずれ回を改めるとして、1980年にST-506が発売されてから20年を経過した2000年にSATA-IOが設立されたことで、やっとストレージインタフェースに関する標準的な検討の場ができたことになる。

 この後、Serial ATAやその関連規格はPCの枠を超えて広範に利用されるようになるし、SCSIもSerial ATAの技術を利用したSAS(Serial Attached Storage)に進化するなど、その影響力は大きい。ただそこに辿り着くまでの20年は、あちこちさまよっていたというのが正直なところである。

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