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Engadget日本版はなぜ終わったのか、最後の編集長・矢崎飛鳥氏に聞く(第1回) 「矢崎Engadget」はいかにして生まれたのか(4/4 ページ)

» 2022年05月18日 13時52分 公開
[西田宗千佳ITmedia]
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IttousaiとEngadget

西田 そこで、実は個人的にずっと聞きたかったことが1つあって。

 「Engadget」というメディアって、僕は、昔ものすごく好きだったかというと、内容は好きだったけど表現は嫌いだったのね。言ってしまえばそれは個人のメディアだったから。

 Ittousaiさんという個人のメディアだったから、彼のブログとしては面白いけれども、彼の表現としてメディアで立ちすぎるのはどうなのかな、と思ってた時期があった。今は違うんですけど。

photo Ittousai氏

 で、Engadgetを引き継ぐということは、極論すると、今もそうなんだけれども、顔としてのIttousaiさんのね、書きぶりとか、文体とかがあるわけじゃないですか。あと切り方とか。

 そういうものをどう扱うか、ということと表裏一体なわけですよ。

 あれを否定する必要はもちろんないし、否定したら成り立たない。

 一方で、メディアとして大きくするためには、テイストというのをもっと「メディア然」としなきゃいけないわけじゃないですか。

 そこをどう考えたのか。

矢崎 その課題は、以前の編集長、鷹木(創)編集長時代も、けっこう衝突してる問題で。

 Engadgetはね、Ittousaiが2005年に始めたブログメディアで、USと数カ月も差がないぐらいのタイミングでIttousaiが始めてて。今、中国語版とUS版があるんだけど、その全スタッフの中でも、Ittousaiが最も古株になってるぐらい。

西田 あ、そうなんだ。

矢崎 日本は特にEngadgetイコールIttousai、というのが強くて。

 Ittousaiが表現のひな型みたいなのを作ったんですよ。「Engadgetはこうあるべきだ」という決まりを作ったんですね。

 そのフォーマットは社内wikiみたいなのにまとまってて、「基本的にはですます調である」とか、「こういった表現は使わない」とか。なんなら、最初は「広告も請けない」というレギュレーションがあって。Ittousaiが求めるクオリティのレギュレーションというのが明確に存在してた。

 それを、完全に無視する形で、前編集長は、「やりたい表現はそのままやってもいいけど、このままだとサイト規模は大きくならない」と。

 それは本当にそうだと思う。スピードと物量の時代、というのもあるから、Ittousaiには妥協してもらったんですよ。とにかく量を出そう、というような戦略に、鷹木編集長時代に変わって。

 その路線が出来上がった後に私が入ってるので、Ittousaiは自分が考えるEngadgetの表現がもうできなくなった後だったんですよね。

西田 ああ、そうか。

矢崎 でもやっぱり、Ittousaiは、Engadget日本版は自分のものだ、という信念と情熱があるから……やっぱり、すごい衝突がよくあった。

photo 「さよならEngadget & TechCrunch」イベントの歴代編集長座談会にて、謎の反射覆面がIttousai氏、マスクが矢崎氏

 なんなら、クロージングが決まった後でも衝突はある。

 「誰々の記事を載せたくない」とか、「もうこのライターさんはお願いできない」とか、そういうこと。ものすごく我慢してくれるようになったけど、でも、クオリティに対してはこだわる。

 まあでも普通は、そういうのって編集長が言うものじゃない?

西田 まあそうね。

矢崎 編集長ではなく、Ittousaiがそこはやっぱりすごく気にしてて。最後まで、彼は葛藤があったと思う。

 でもまあ、その考えで、今のような広告モデルでやれてたかというと、それは絶対無理だったと思うから、鷹木さんの判断はまあしょうがなかったとは思うんだけど。

 西田さんは本人をご存じですけど、この業界でも彼を見たことがある人、ほとんどいないんですよ。

西田 あ、そうかもしれないです。

矢崎 Engadgetは、まあ私も一部、すごく注目していただいてますけど、やっぱり一般の読者は多くの方が「Ittousaiはどうなっちゃうんだろう」みたいな話をしてる。

 やっぱりEngadgetは彼のものだったんだな、というのをあらためてみんなで認識してますね。

西田 メディアでそう言ってもらえるのって、やっぱりそれは幸せなことで。なかなか、キャラクターを読者の側が大切にしてくれてるメディアってないですよ。

(続く)

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