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未来の給食センターは海にある!? 「SF思考」で厨房機器メーカーが動画制作 PR以外の効果とはSFプロトタイピングの事例を紹介(1/2 ページ)

» 2022年11月28日 07時30分 公開
[大橋博之ITmedia]

 こんにちは。SFプロトタイパーの大橋博之です。

 この連載では、僕が取り組んでいる「SFプロトタイピング」について語ります。SFプロトタイピングは、SF的な思考で未来を考え、実際にSF作品を創作して企業のビジネスに活用する手法のことです。

  こういうと難しく感じて身構えてしまうかもしれません。しかしこの手法の本質は、簡単な方法だとしても実際に取り組んでみることにあります。SFプロトタイピングの専門家がいなくても実践して成果を得られます。

 そこで今回は、自社で独自にワーキングチームを組織して、会社として進むべき未来の姿をSF思考で考え、最後に未来のイメージ動画を作成した企業を紹介します。お話をお伺いしたのは、厨房機器メーカー中西製作所(東京都中央区)の中西一真氏(代表取締役社長)です。

SFプロトタイピング 中西製作所の中西一真氏(代表取締役社長)

1946年に創業 マクドナルド日本1号店の厨房機器を手掛ける

 中西製作所の歴史は1946年(昭和21年)までさかのぼります。戦後間もない頃、中西氏の祖父が創業した中西商店がはじまりです。当時、日本の未来を担う子どもたちに栄養価の高い給食を食べさせたいという思いから、給食用のアルミ食器などを製造・販売したことが今につながっています。

 後に中西商店は中西製作所になり、1971年には銀座のマクドナルド日本1号店に設置する厨房機器を手掛けるなど事業を拡大してきました。

 創業時の思いやチャレンジ精神は現在も変わることなく、総合厨房機器メーカーとして、学校や病院、ファストフード店、レストランなどに厨房機器を提供しながら、食による豊かな生活と未来の実現に取り組んでいます。

 「私たちは現在だけでなく、常に未来を考えています。未来では今以上にロボットの活用による省人化や省力化が進むでしょう。そこで弊社の100周年に当たる2046年には学校給食はどのようにして作られ、学校にどう届けるのだろうかと想像した動画を制作しました」(中西氏)

 実は、中西氏や中西製作所の皆さんはSFプロトタイピングを知りませんでした。しかしこの連載を読んで「自分たちが取り組んだことはSFプロトタイピングに当てはまるのではないか」と考えたといいます。実際、SFプロトタイピングをサポートするSFプロトタイパーの筆者から見ても、当てはまるといえるものでした。

2046年の学校給食センターはどんな場所?

 では、中西製作所が描く未来の給食とはどのようなものなのでしょうか。それを描いたイメージ動画が「未来の学校給食センター」です。給食が提供されるまでの作業工程をCGで描いており、ナレーションでの説明は一切なく映像で未来像を紹介するものです。

中西製作所が制作した未来の学校給食センター

1. 未来の給食センター

 動画で最初に登場するのが未来の給食センターです。海上にあり、施設は海洋風力発電や太陽光発電などの自然エネルギーを活用して稼働します。

SFプロトタイピング

2. ドローンで食器を返却

 各学校で使い終わった給食の食器類はドローンで返却します。未来では食器を返却しない可能性もありますが、それを描くと本来伝えたいことがぼやけてしまうため、あえて食器を使うことを前提にしています。

SFプロトタイピング
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3. 食器類の消毒殺菌

 返却された食器類は自動で洗浄して消毒殺菌をします。動画では紫外線ライトを照射して消毒殺菌していますが、現状ではまだ不可能だといいます。紫外線ライトは食器類が重なっている部分を殺菌できないため、将来的にはそうした課題の解決を見込んでいます。

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4. 野菜工場での食材収穫

 食器類の処理を見てきました。ここからは給食の調理です。未来の給食センターでは、内部に野菜工場や植物工場があって食材を育てているかもしれません。

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5. 下ごしらえと加熱調理

 収穫した食材を自動で下ごしらえして加熱調理します。これは簡単ではなく、野菜の種類や形状が同じなら自動化は容易ですが、実際には形も調理方法も違うため難しいのが現状です。

 動画内では自動調理を描いていますが、調理は人間のクリエイティビティ領域として残すべきではないかと中西氏は言います。野菜の皮をむく、切るといった工程はロボットに任せつつ、人間の役目も残すことで料理の発展にもつながると考えています。

SFプロトタイピング
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6. 配缶

 作った給食は専用のポットに入れて運びます。中西製作所ではこの配缶に注目しています。現在、毎日違うメニューで汁物や煮物などを人手で配缶しているため手間になっています。クラスの人数分の配缶を自動化することで、労働力不足を解決できると中西氏は話します。ポットにセンサー類を付けることも想定できますが、すでに同社ではポットのセンサーで児童が残した給食の量(残食率)を計測するシステムを開発済みとのことです。

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7. 配達

 ポットに入れた給食は、食器類の回収時と同じくドローンで各学校に運びます。動画ではドローンを使っていますが、給食センターの位置によっては無人トラックで運ぶ方が効率的な場合もあると想定しています。

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